レビュー

レディ・バード(Lady Bird)

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おすすめ度

Lady Bird

キット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

『20センチュリー・ウーマン』などのグレタ・ガーウィグが、カリフォルニア州サクラメントを舞台に、自伝的要素を盛り込みながら描く一人の女子高校生の物語。カトリック系の高校に通い、自分のことを“レディ・バード”と呼んでほしい17歳の主人公クリスティンは、進学を目前にしながら自分の進路や親との関係、友人やボーイフレンドことなどで悩み、心がさまざまに揺れ動く日々を送っている。主人公クリスティンに『ブルックリン』『つぐない』でアカデミー賞候補にもなったシアーシャ・ローナン。母親マリオン役にはベテランのローリー・メトカーフ。2018年アカデミー賞で作品賞ほか6部門にノミネートされ、ガーウィグも女性として史上5人目の監督賞候補となった。

 

言いたい放題

アイラ♡ 日米の違いはあるにせよ、ほんとにどこにでもいる女の子の、高校生活最後の1年を描いたお話。よく言うところの“成長の物語”というほど主人公が成長するわけでもなく、でもいろんなことに心が揺れ動く、その普通な感じが共感を集めているみたいやね。

キット♤ と同時に、これは母と子の物語でもある。冒頭、主人公レディ・バードことクリスティン(シアーシャ・ローナン)が母親(ローリー・メトカーフ)が運転する車の助手席に座っているシーンが数分間続く。2人の会話で、母親の娘に対する過剰な干渉ぶり、それに対する娘の反発、でも自分の将来に確固たるイメージを持っていないこと、興味本位でいろいろ手を出すけど達成できずに中途半端に終わっているようであることなどが自然に理解されて、このあたり脚本がよくできてるな。

♡ 対立の最たるものが進学先。NYに行きたい娘と地元のカレッジを強硬に勧める母親の食い違いは、物語の最後にまで大きく影響する。♤ この母娘、背格好は同じくらいでヘアスタイルもなんかよく似てるやん。車の座席に並んで座ると、若くて元気な高校生と、数十年後の生活に疲れた母親の対比を見せられているようで、何やら時間の残酷さ感じたりもする。17歳の役を演じたローナンの実年齢は撮影当時23歳だが見た目は高校生、2年前の『ブルックリン』よりも若く見えるくらい。あと、ブルックリンのときも思ったけど、首が長いな(笑)。

♡ 現実的にものを考えるのが母のマリオン。夫がリストラされ、学業優秀な長男もバイトしながら求職中という一家を看護婦をしながら支えているので、経済観念が発達して当たり前なんやけど、ほんとにまぁ二言目にはお金のことばっかり(笑)

♤ 財布の紐は当然固い。でもプロムのためのドレスはすんなり買ってやるし、ミシンで服のサイズを直してやったり、うるさいだけの母親でないところをさりげなく見せてるところも巧み。♡ クリスティンが通っているのがカトリックの共学校。マクファーソンという彼らの苗字がアイリッシュ系なので不自然ではないのやけど、現代ものではなかなか珍しい設定よね。私がカトリックの女子校出なので、シスターがスカート丈をチェックしに来るシーンが自分の経験とそのまま重なって、ここはひとりでウケてしまったわ。

♤ ユーモラスな要素の散りばめ方もなかなかええよな。母親が中絶しなかったお蔭で今の自分がいるという経験談を生徒たちに聴かせるクラスで、クリスティンは「中絶していれば、このくだらない授業を受けずに済んだ」と発言して停学になってしまう。アメフトのコーチにミュージカルの舞台演出をさせると、アメフトのフォーメーションさながらに演者の動きを組み立てる・・・など、押さえるべきポイントで笑わせてくれる。

♡ ミサで使う聖体拝領のパンを、スナック菓子みたいにぼりぼり食べてたりね・・・。あとはやっぱり、10代の後半でクリスティンがさまざまな現実と直面していく、その描き方のうまさやろね。親友に恵まれ、学園ミュージカルのオーディションにも合格して楽しい日々を謳歌する一方、できたばかりのボーイフレンドは実はゲイらしいとわかり、失意のうちに接近した別の男子と初体験を果たすも、遊び人と知ってまたまたショック。豊かではないエリアに住んでいることを恥と感じ、友達には別の家を自宅と教えてしまう。親友は教師への恋心が無残に破れ・・・と、大きなドラマがあるわけではないけど、誰もが10代のころなんとなく似た経験をしたよねという問いかけがやさしくて、本作独特のほろ苦くもみずみずしい味わいを醸し出してる。

♤ 出演者では総じて女性が活発で、それぞれに存在感あり。クリスティンが付き合う同級生に『マンチェスター・バイ・ザ・シー』や『スリー・ビルボード』のルーカス・ヘッジズと、『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメという売出し中の2人を贅沢に起用してるけど、役の上では影は薄い。あと、父親役のトレイシー・レッツがいい味を出していた。

♡ 10代の女の子にとっては、彼はほんとに理想的すぎるほど理想の父親なのよ。クリスティンの兄は養子で人種が違うけど、普通に喧嘩もする仲の良い兄妹。温かく精神的に豊かな家庭に育っていることが上手に描かれてるよね。走行中の車から飛び降りてしまうほど母と対立してきた進学問題も、父の応援を得て収束を迎えるのやけど、それを許せぬまま空港で娘を冷たく見送り、思い直して出発ロビーへ車を進める母の顔をとらえたシーンが秀逸。標識を追ってめまぐるしく動く彼女の視線と、その脳裏によぎる思いを想像するとたまらないものがあった。

♤ 特にどこがクライマックスという場面はないけど、グレタ・ガーウィグ初の単独監督作品とは思えないくらい、セリフの密度、話の進み具合が自然で見ていて疲れず飽きない。時代設定は40年ほど違うけど、映画全体の印象から『アメリカン・グラフィティ』を連想した。

 

予告編

スタッフ

監督 グレタ・ガーウィグ
脚本 グレタ・ガーウィグ

 

キャスト

シアーシャ・ローナン クリスティン・マクファーソン(レディ・バード)
ローリー・メトカーフ マリオン・マクファーソン
トレイシー・レッツ ラリー・マクファーソン
ルーカス・ヘッジズ ダニー・オニール
ティモシー・シャラメ カイル・シャイブル
ビーニー・フェルドスタイン ジュリー・ステファンス
スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン リバイアッチ神父
ロイス・スミス シスター・サラ・ジョアン
オデイア・ラッシュ ジェナ
ジョーダン・ロドリゲス ミゲル
マリエル・スコット シェリー
ジェイク・マクドーマン ブルーノ先生

 

レクタングル336

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