おすすめ度
キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆
『6才のボクが、大人になるまで。』のリチャード・リンクレイター監督が、『さらば冬のかもめ』のダリル・ポニックサンの小説をベースに描くロードムービー。家族もなくひとり寂れたバーを営むサルと、牧師となって妻と穏やかに暮らしているミューラーのもとに、30年ものあいだ音信不通だった旧友のドクが現れる。1年前に妻に先立たれたというドクは、2日前に息子が戦死したことを2人に告げ、息子の遺体を連れ帰る旅への同行を依頼する。異なる人生を歩んできた3人が30年ぶりに再会し、車や列車でともに旅をするうちに、失っていた何かをそれぞれに取り戻していく。主演は、いずれもアカデミー主演男優賞へのノミネート経験を持つ、スティーブ・カレル、ブライアン・クランストン、ローレンス・フィッシュバーンの3人。
言いたい放題
キット♤ おっさん3人のロードムービー。原作はハル・アシュビー監督『さらば冬のかもめ(The Last Detail)』のダリル・ポニックサンなので、その続編といわれたりしてるようやけど、兵士3人(本作は元兵士)のロードムービーという共通点以外、物語としての関連性はとくにない。妻に先立たれ、息子の戦死の報を受け取ったばかりのドクが、2人の元戦友を誘って息子の遺体を引き取りに行くという話。
アイラ♡ 『6才のボクが、大人になるまで。』で注目を集めたリチャード・リンクレイター監督作品。主演のおっさんたちは、ドク(スティーブ・カレル)、サル(ブライアン・クランストン)、ミューラー牧師(ローレンス・フィッシュバーン)の3人で、ベトナム戦争で海兵隊の同じ部隊にいた戦友仲間。
♤ クレジットやポスターの並びから、主人公は30年ぶりに当時の海兵隊仲間を尋ねていくドクやけど、おとなしい性格でセリフも少なめ。終始喋り続けて悪ふざけするサルが話を引っ張っていく感じ。TVドラマ『ブレイキング・バッド』の成功で、50歳を過ぎてスターになったブライアン・クランストンの若い頃を知らないので、ブレイキング・バッドの学校教師や脚本家ドルトン・トランボなどの落ち着いた年配の役しか見ていなかったが、やんちゃな中年オヤジ役も十分良かった。
♡ 一見ハジけすぎやろと思うほどのサルのキャラクターなんやけど、黙っているときの彼の表情は暗く哀しげで、ずっと物思いにふけっている感もある。ブライアン・クランストンはTVドラマが主戦場で、劇場映画では端役ながらも出演作数がすごく多い俳優さん。さすがに多種多彩な役をこなすね。
♤ 逆に、コメディアンのバックグラウンドを持つスティーブ・カレルが寡黙な役で、本作での存在感は非常に地味。そのぶん近日公開の『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』での本領発揮が楽しみや。ローレンス・フィッシュバーンは『マトリックス』3部作のモーフィアス役のイメージが強すぎるけど、髪も髭も白くなって神とのコンタクトを語る一風変わった牧師の役というのも悪くない。ほかには、棺のお守り役として3人の旅に同行する若い海兵隊員のワシントン(J・クイントン・ジョンソン)や、あと出番は少ないけどワシントンの上司の大佐(ユル・ヴァスケス)が主な登場人物。大佐のメイクがヌメッとして気持ち悪かったな。
♡ このワシントンの存在がなかなかよかったね。世代は全く違うけど、海兵隊員として戦地に赴き、戦友を失う経験をしているという共通点によって結ばれている。彼が3人のヴェテラン(退役軍人)に敬意を払いつつ、ときにオヤジの下ネタにも付き合いながら、きちんと任務を遂行する姿勢にはぐっときた。
♤ 『さらば冬のかもめ』では、旅する3人のリーダー格のジャック・ニコルソンが行く先々でハチャメチャなことを繰り返していたのに比べると、こっちのおっさん3人は、サルが多少酒癖が悪い以外、だいぶおとなしい感じ。でも棺桶を積んだ貨車でワシントンと4人、ベトナム・ディズニーランドを語るところはぶっ飛んでて面白い。細かいことにこだわらず、人のお節介を焼きながらリーダーシップをとっていくサルのキャラもよかった。
♡ ドクがこの2人を誘った理由は明確には示されないのやけど、物語が進むうちになんとなくわかってくるのよね。ミューラーが聖職者の道を選んだのもどうやら過去に何らかの理由があるらしいことも・・・。
♤ 3人は除隊後30年間会ってなかったくらいやから、仲の良い友達ではなかった。2人が道連れを引き受けたのは、ドクがサルとミューラーの所在をインターネットで探し当て、わざわざ訪ねてきたから。彼らにはベトナムの戦地でもうひとりの兵士を巻き込む何らかの悪行か失敗を犯し、ドクに迷惑をかけた自責の念をずっと抱いているらしい。ドク自身が、映画の終盤でサルに「貸しはない」と言ってることからも、昔の「貸し」を返してもらうために2人に同行を求めたのかもしれない。それが3人で旅をするあいだに、友情に変わっていくというのがええところ。
♡ 終盤、戦死した戦友の老いた母親を訪ねる場面で、ここで彼らは罪の告白をするつもりやったと思うのやけど、結局は真実を告げることはしなかった。息子は他の兵士の命を救って死んだと聞かされ、それを信じてきた老母の誇りを傷つけないほうを選んだのやね。
♤ 同じことはドクの息子についても言えて、彼もまた息子は名誉の戦死をとげたかのように知らされていた。戦死公報はときに粉飾され、大統領からのおよそ胸に響かない弔事とともに届けられるということか。
♡ サダム・フセインの拘束を伝えるテレビを見ながら、ドクは「彼も息子を2人亡くした」とつぶやく。戦いで家族を失う辛さは、たとえ圧政者であっても同じだという思いが響いたよね。若いワシントンと3人のやりとりや、終盤で3人が交わす言葉を通じて、アメリカには徴兵制があり、世代を超えて兵士を送り出してきた歴史があることをしみじみ理解したわ。戦争の理由はときにあいまいで、意義を見いだせないような戦死もある。でも戦地へ赴いた人々の尊厳と、遺族への思いやりの気持ちは決して損われてはならないこと。そのあたりが本作のメッセージなのかなと思った。日本人には少しわかりにくいとこやけどね・・・。遺体には普通のスーツを着せると言い張ってきたドクが、海兵隊の礼服であるブルードレスでの埋葬へと翻意したのも、息子を彼自身の誇りとともに送るべきだと気づいたからだと思う。そう考えると、この邦題はぜんぜん能天気すぎ〜。
♤ 原題にある“fly”には旗を掲揚するという意味があるから、軍葬などで棺を覆った星条旗をきちんとたたんで遺族に手渡す儀礼のことを意味しているのは、アメリカ版のポスターからもわかるしな。
♡ それに比べて日本版ポスターなんて、ほんまにおっさんの同窓会のスナップやん! それはそうと、ベトナム戦争に触れながら、本作ではもはやお約束であるドアーズやらCCRやら、当時のロックがまったく使われてないのが面白かったわね。カーラジオから流れるいまどきの曲としてサルがこき下ろすのはエミネムの“Without Me”。ラスト近くに使われるのが、ザ・バンドのドラマーだったリヴォン・ヘルムの“Wide River to Cross”。そしてエンドロールにはボブ・ディランの“Not Dark Yet”と、60~70年代ヒット曲は一切出てこず。
予告編
スタッフ
監督 | リチャード・リンクレイター |
原作 | ダリル・ポニックサン |
脚本 | リチャード・リンクレイター |
ダリル・ポニックサン |
キャスト
スティーブ・カレル | ラリー・“ドク”・シェパード |
ブライアン・クランストン | サル・ニーロン |
ローレンス・フィッシュバーン | リチャード・ミューラー牧師 |
J・クイントン・ジョンソン | ワシントン |