レビュー

LION ライオン 25年目のただいま(Lion)

投稿日:2017年4月10日 更新日:

おすすめ度

Lionのポスターの写真キット ♤ 3.0 ★★★
アイラ ♡ 3.0 ★★★

5歳のときにインドで迷子になり、オーストラリア人夫婦の養子となった少年が25年後、Google Earthと幼時のかすかな記憶を頼りに生まれ故郷を探し出した実話を、『スラムドッグ$ミリオネア』のデブ・パテル、『キャロル』のルーニー・マーラ、ニコール・キッドマンらの共演で映画化。監督はテレビシリーズや短編などを手掛けてきたガース・デイヴィス。制作陣には、『英国王のスピーチ』などのプロデューサー、イアン・カニングが名を連ねる。

 

 

言いたい放題

キット♤ 劇場予告を何度も観て話の大筋は分かっていたから、主人公の子供時代と成人してからの映像を交えながら話を進めていくのかと想像してたけど、映画の前半はインドでの子供時代の話をみっちり描いてた。

アイラ♡ 私は、迷子になって養子にもらわれるまでを前段でぱぱっと描いて、Google Earthでの故郷探しにじっくり時間を割くのかと勝手に想像してたので、前半の物語が遅々として進まないのに最初少しいらついてたの。でもこの幼年時代の細かな描き込みが終盤に生きてくるし、丁寧に作られていたこともあって、この前半は評価したいわ。何といってもサルー役の少年の愛くるしい演技! お兄ちゃんとはぐれて、人っ子ひとりいない回送列車内をさまようシーンなんて、全身で不安と恐怖と寂しさを演じきってて驚くほどやった。

♤ お兄ちゃんを見失ったサルーは、停車中の客車でうたた寝しているうちに1600kmも離れた場所へ運ばれてしまう。さまざまな放浪の末に孤児院に収容され、運よくオーストラリアの養父母へ引き取られるまでの前半はインドが堪能できる。1600kmといえば東京~大阪の約3倍の距離。たどり着いたコルカタの言葉はベンガル語で、故郷での言葉ヒンディー語が通じない。国土の広大さ、言語の違い、人間だらけの駅や雑踏のシーンを見せつけられて、もう親元には帰れないという絶望感がひしひしと伝わる。凝った作りにせず、時間軸に沿ってドキュメンタリー風に進んでいくシンプルな撮り方にしたのがかえってよかったんとちがうかな。

♡ 一見ええ人ぶった怪しい“人買い”風のおっさんとか、地下道に住み着く浮浪児たちとか、次々織り込まれるエピソードにも引き込まれる。それに対して、後半はやや凡庸になってしまった感ありやね。Google Earthで見つけるのに5年かかったという割に、その大変さがあまり伝わってこなくてもったいない。

♤ 俳優はなかなか豪華に使ってきてるんやけどな。養母役のニコール・キッドマンはおばさん役に挑戦ということでは注目できるけど、この役は彼女である必要は特にない。オーストラリア製作ってことで、地元出身かつ名前で集客できるキッドマンを押し込んだ感もある。製作発表当時はヒュー・ジャックマンの出演もアナウンスされていたので、実現すればコケた大作「オーストラリア」の悪夢再現やったかも・・・。

♡ 養母が、なぜインド人の子どもたちを2人も家族に迎えたのかを説明する場面は、日本人には少し難解なところがあるわね。彼女によれば、それは“天啓”であり、自分の子を産まずに養子を迎えることに夫も賛同したから結婚したというような説明。発達障害らしき問題を抱えるもう一人の養子との心理的関係も少しわかりにくいところがあるので、後段はそこをより立体化させるという手はあったんじゃないかな。子育てに対する養母の思いがもっと描きこまれたら、サルーの“自分探し”の旅の意義も深掘りできたと思うのやど。

♤ 恋人に『ドラゴン・タトゥーの女』『キャロル』の ルーニー・マーラ。独特の線の細さがあって雰囲気もええのやけど、その存在意義も中途半端。彼女との振って振られて仲直りという話は全く本題と関係ないし、話を膨らませるために加えただけのような感じ。起承転結がすでにわかっている作品だけに、全体を冗長にしてしまった印象やな。対して、成人してからの主人公サルー役のデブ・パテルは『スラムドッグ$ミリオネア』の少年役から『チャッピー』などを経由して、すっかりいい感じの俳優になってる。ロンドン育ちで、英米圏の英語が話せるインド系の若手俳優はそういないので、今後も活躍の場は広がりそうやな。

♡ 原作者がかなりガタイのいい人なので、だいぶ体を作ったんですって。少年っぽさが抜けて、ほんまええ感じになってたね。

♤ ところで、この原作は読んでいないのやけど、Wikipediaによると原作者サルー・ブライアリーの生まれはインドのカンドワという場所らしい。カンドワをGoogle Earthでさがしてみるとインドのほぼ中央に位置する。映画ではもっと北のネパールに近い方角を探索して見つけたことになっている。なぜ生まれた場所を原作変えたのかはわからないけど、あとでGoogle Earthでその地点を発見することを考えると、印象的でわかりやすい地形をもった場所にしたのかもしれないな。

 

予告編

スタッフ

監督 ガース・デイビス
脚本 ルーク・デイビス

 

キャスト

デブ・パテル サルー
ルーニー・マーラ ルーシー
ニコール・キッドマン スー
デビッド・ウェンハム ジョン
サニー・パワール サルー(少年時代)
アビシェーク・バラト グドゥ
プリヤンカ・ボセ カムラ

 

レクタングル336

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