レビュー

彼が愛したケーキ職人(The Cakemaker)

投稿日:2018年12月23日 更新日:

おすすめ度

The Cakemaker

キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

イスラエルの若手監督、オフィル・ラウル・グレイツァ監督作品。イスラエルのアカデミー賞といわれるオフィール賞で9部門にノミネートされたほか、国外の映画賞でも多数の映画賞を受賞。ベルリンのカフェで働くケーキ職人のトーマスと、エルサレム出張で時々やって来るなじみ客オーレン。やがて2人は恋人の関係になるが、1ヵ月後にまた来るはずのオーレンからの連絡がぱったり途絶えてしまう。妻子のいるエルサレムで、彼は交通事故で亡くなっていたのだった。トーマスは、カフェをきりもりしながら息子を育てるオーレンの妻・アナトの店に雇われることとなるのだが・・・。

 

言いたい放題

アイラ♡ 実に語りどころに富んだ、味わい深い作品。まさに丁寧に作られたケーキのよう。登場人物がイスラエル人とドイツ人という設定、ユダヤ教の戒律の独特の厳しさ、そしてバイセクシュアルへの視線、不倫・・・切り口となる素材はいくつもあるのやけど、どれをも強く主張することをせず、熟成したお菓子のようなビターで複雑な風味を醸し出していて素晴らしい。

キット♤ 普段はなかなか観ることのないイスラエル映画。主要登場人物は、ベルリンのケーキ職人トーマス、エルサレムから仕事でベルリンに来ているうちにトーマスと親しくなるビジネスマンのオーレン。オーレンの妻でエルサレムでカフェを営むアナトの3人。オーレンはいわば出張先で浮気していたわけやけど、オーレンが事故で突然亡くなり、オーレンと連絡が取れなくなったトーマスがはるばるエルサレムまで来てしまう。

♡ アナトの店が人手不足なのをみて、トーマスはそこで働くことを志願。やがてケーキ職人の腕を発揮しはじめ、店はたちまち人気カフェに。何も知らないアナトの気持ちは次第にトーマスに傾き、戸惑いつつもそれを受け入れるトーマス。しかしやがて事は露見してしまい・・・って物語なのやけど、ここに先のいろんな要素が絡んできて独特の味わいを出していくのが何とも面白い。監督はまだ30代後半の若さというから驚いた。

♤ ただこのトーマスというのが結構粘着質で、エルサレムまでやってきてオーレンの死を知るところまではまあええとして、その後も留まってアナトの店に就職までしようというのはどうしたものかなぁ。そうこうしているうちに2人の距離は接近するのやけど、オーレンの兄にバレてしまい、そこは戒律の厳しいユダヤ教の国なので、あとは推して知るべし。まぁアナトがトーマスに迫るのはわかるとして、トーマスはなぜ拒絶しなかったのかがよく分からなかった。

♡ 監督であるイスラエルの若手オフィル・ラウル・グレイツァ自身がゲイだとのことで、そうした心の機微をよくわかったうえでの演出やろね。トーマスがプールサイドや公園の片隅でぼんやりとしていると、彼に意味ありげな視線を送る男たちが必ず出てくるのやけど、トーマスはそれに応じる様子はない。こういう感覚もストレートだと想像力で理解するしかない。私はむしろアナトの心情のほうに興味を抱いてしまって、たとえばトーマスと関係をもったことで激しい泣き笑いが交互に押し寄せる場面や、自らベルリンまで赴いてトーマスの姿を目にしたときに見せるすがすがしい表情には揺さぶられたな。俳優たちの演技力があれば、セリフはほとんど必要ないってこと。

♤ そういえば起用されているのは知らない俳優ばっかりやね。オーレンが渋くてかっこいいおっさんなのに対して、トーマスはややもっさりした感じがする。アナトは美人ではないが、役柄には合っている。

♡ トーマス役のティム・カルクオフは新人とのことで、体毛の薄い色白ぽっちゃり系で、その繊細な存在感がけっこう凄い。アナトには発達障害の息子がいるのやけど、この子にもさり気なく気持ちを向ける優しさがあって、こうしてみると本作にはさまざまなテーマが織り込まれているのがわかるわね。秘するが花というけれど、おおっぴらにしないからこそ、あらゆる感情が指の間からこぼれ出してくるような、なかなか色気のある作品やったと思います。

♤ 見逃せないのがユダヤ教の戒律や習慣。「コーシェル(コーシャ)」という食品をめぐる決まりがあるのは知ってはいたけど、映画とはいえ現実にそれが運用される場面を見たのは初めて。オーガニックなんかと同じようにコーシェル認定の制度があって、厨房では肉と野菜は完全に分離して扱ったり、ひとつでも決まりに抵触すると飲食店の営業許可を取り消されたりする。ドイツ人のトーマスが作るというのも微妙そうやったけど、いろいろと目新しくて興味深かった。

 

 

予告編

スタッフ

監督 オフィル・ラウル・グレイツァ
製作 イタイ・タミール
脚本 オフィル・ラウル・グレイツァ
撮影 オムリ・アローニ
音楽 ドミニク・シャルパンティエ

キャスト

ティム・カルクオフ トーマス
サラ・アドラー アナト
ロイ・ミラー オーレン
ゾハル・シュトラウス モティ
サンドラ・シャーディー ハンナ

レクタングル336

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