おすすめ度
キット ♤ 4.5 ★★★★☆
アイラ ♡ 5.0 ★★★★★
クエンティン・タランティーノ9作目の長編監督作。レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットを初共演させたことでも話題に。落ち目の俳優とそのスタントマンの2人を軸に、1969年の黄金期のハリウッドを描く。テレビ俳優としてのピークを過ぎ、映画界への転身を図るリック・ダルトンと、彼のスタントマンのクリス・ブース。生活ぶりも性格も対象的な2人だが、固い信頼で結ばれていた。リックの邸宅の隣には、時代の寵児となっていた映画監督のロマン・ポランスキーとその妻シャロン・テートが引っ越してきていた。新たな自分を模索しはじめるリック。スターダムを駆け上がろうとしているシャロン・テート。そして彼らを巻き込んでいく狂った事件がいままさに起きようとしていた・・・。
言いたい放題
アイラ♡ これはもうクエンティン・タランティーノの最高傑作といっていいのでは? 時代設定、ストーリー、配役、音楽、そして数々のトリビア・・・と語りどころが満載。
キット♤ タランティーノの9作目。そして満を持してのハリウッドネタ。時代は1969年、シャロン・テートがカルト集団マンソン・ファミリーのメンバーに殺された年であり、物語はあの事件が起こる直前までを描いている。
アイラ♡ 中学生ではあったけど、シャロン・テート事件のことはそれなりに覚えているし、描かれる時代の空気はリアルタイムで経験しているので本当にわくわくしたわ。アメリカ人だったら、次々と出てくる当時のテレビ番組や、大ヒットまではいかなかったけど時代の匂いを発する数々の音楽に、いろんな思いを掻き立てられたことやろね。
キット♤ 主演はレオナルド・デカプリオとブラッド・ピット。タランティーノ作品ではお馴染みの二人やけど、デカプリオは落ち目なハリウッドスターで、仕事がないことを嘆いたり、情緒不安定なところを見せるちょっとイタい役。かたやブラピはデカプリオの専属スタントマン。スタントの仕事だけでなく、運転手としての送迎や、アンテナの修理など便利屋のようなことまで苦にせずこなしつつ、細かいことは気にせずサバサバ生きているようで見ていてかっこいい。めちゃ強そうな犬も飼ってる。
アイラ♡ かつてこれほどかっこよくブラピを使った作品があったかしらと思うくらい。当初は地味でおとなしい男として出しておきながら、ラストに向けて加速度的に存在感を高めて、どんどんかっこよさが増していくのよね。
キット♤ ハリウッドが舞台なので、デカプリオが主演する映画の撮影シーンや、アル・パチーノ扮するプロデューサーとのやり取り、ブラピがブルース・リーのそっくりさんと対決するシーンなど、映画絡みのネタが盛りだくさんで映画ファンにはたまらない。俳優もマーゴット・ロビー、ダコタ・ファニング、ブルース・ダーンなど贅沢に使っているし、実在の人を演じたなかでは、スティーブ・マックィーン役のダミアン・ルイスがもうそっくり。マーゴット・ロビーは、DCのハーレークインやトーニャ・ハーディングなど押し出しの強い悪女のイメージやったけど、180度違うシャロン・テートを演るのは大したもの。
アイラ♡ 私もポイントのひとつはシャロン・テートやと思うのね。いわばタランティーノのシャロン愛。事件が起きたとき、彼女は『ローズマリーの赤ちゃん』で成功したてのロマン・ポランスキー監督と結婚し、女優としての階段にしっかりと足をかけたばかり。がらがらの映画館ではディーン・マーチンとの共演作が上映中なのに、切符売りさえ彼女を知らない。それでも、「これからよ!」という希望と幸福感でいっぱいのシャロン。書店で夫のために『テス』の原作本を買うところなんて、このあと何が起きるかわかってるだけに涙ぐみそうになったわ。
キット♤ 主演の2人を面白おかしく描く一方で、マンソン・ファミリーの話が不気味に進行していく。ブラピがたまたま街で拾って送ってやったヒッピーの女性がマンソン・ファミリーのメンバーで、彼がそこで騒動を起こすあたりから、只者ではない感じが立ちのぼってくる。一方、デカプリオの屋敷の隣に引っ越してきたのがロマン・ポランスキーとシャロン・テート夫婦だったという繋がりから、あとは一気に結末へ。シャロン・テート事件は事実として知っているので、タランティーノお得意の血だらけの場面でシャロン・テートが殺られて行く悲惨な結末を想定してたけど、そこは見事に裏切られたな。マンソン・ファミリーの連中が大間抜けやし、マッチョなブラピや、彼が『イングロリアス・バスターズ』で使った火炎放射器などの伏線が効いて痛快な結末になっている。
アイラ♡ 火炎放射器は、タランティーノによると『追想』(1975)のオマージュでもあるそうな。ともあれ、ラストの外し方が最高よね。史実は変えられないから、いずれ事件は起きてしまうんだとしても、この作品は、シャロン・テート事件に対するタランティーノなりの落とし前のつけ方やったのかなぁと思えてならない。
キット♤ この時代のハリウッドは男中心の世界で女性は映画に華を添える綺麗どころの役割。シドニー・ポワチエの『招かれざる客』の公開が2年前の1967年なので、映画に出てくるのはまだまだほとんど白人。そして男も女もやたらタバコを吸いまくる。「むかし、むかし、ハリウッドで・・・」という意味のタイトルは、ただ昔を良しとするってわけでもやいやろけど、いまどきの「Me Too」みたいなジェンダーや人種の不公平を糾弾する動きに対するタランティーノ流の皮肉が込められているようにも思える。
アイラ♡ 私も、立場の弱い者への視線が優しいなぁという気がした。タバコに関しては、エンドロールに流れるタバコのCM撮影シーンが傑作。おかげでエンドロールがほとんど読めずじまいよ(笑) このあとはベトナム戦争が泥沼化して、アメリカ社会の空気はもちろん音楽や映画などのカウンターカルチャーも大きくその流れを変えていく。ちょうど50年目にあたる今年、69年という年がいかに重要な節目だったかを振り返る企画が世に溢れてるけど、本作はわずかでもあの年をリアルに知っている人々にはたまらないことだらけ。スターたちの暮らし、ファッション、音楽・・・いろんなものがうねっていたあのころへの、タランティーノからの思いが詰まった珠玉の一作やと思う。あ、出血量はかなり少なめ!
予告編
スタッフ
監督 | クエンティン・タランティーノ |
脚本 | クエンティン・タランティーノ |
キャスト
レオナルト・デカプリオ | リック・ダルトン |
ブラッド・ピット | クリフ・ブース |
マーゴット・ロビー | シャロン・テート |
エミール・ハーシュ | ジェイ・シーブリング |
マーガレット・クアリー | プッシーキャット |
テイモシー・オフィファント | ジャイムス・ステイシー |
オースティン・バトラー | テックス |
ブルース・ダーン | ジョージ・スポーン |
ダコタ・ファニング | スキーキー・フローム |
アル・パチーノ | マーヴィン・シュバルツ |
マイク・モー | ブルース・リー |