レビュー

おとなの事情(Perfetti Sconosciuti)

投稿日:2017年4月1日 更新日:

おすすめ度

「おとなの事情」のポスター

キット ♤ 3.0★★★
アイラ ♡ 4.0★★★★

イタリアのアカデミー賞に当たるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で作品賞、脚本賞を受賞したコメディー。古い付き合いの男女7人が集まった食事会の席、彼らは「スマホに入ったメッセージは全員の目の前で開く」「電話はスピーカーに切り替えて話す」というルールを決め、互いに隠し事がないことを証明しあうゲームを開始する。私生活のあれこれが詰まったスマホを絶妙な小道具に仕立て、夫婦や友人間に露呈していく秘密やそれに対する疑惑や衝突、葛藤をおかしくもほろ苦く描いていく。『人生、ここにあり!』『ある海辺の詩人-小さなヴェニスで-』などのジュゼッペ・バッティストン、『ハングリー・ハーツ』などのアルバ・ロルヴァケル、『天使が消えた街』などのヴァレリオ・マスタンドレアらが競演。

 

言いたい放題

キット♤ 主要人物は、新婚、娘の反抗期に悩む夫婦、倦怠期に差し掛かった夫婦の3組と、新しい彼女を連れてこれなかった独身男の7人。食事会の設定なので、全員ほとんどテーブルについた状態で話が進む。原題の「Perfetti Sconosciuti」は英語で「Perfect Stranger」。日本語だと「赤の他人」ってところか。邦題を『おとなの事情』としたのは、同じく密室でのやりとりに終始したロマン・ポランスキー監督の『おとなのけんか』からいただいたのかも

アイラ♡ 私も真っ先に『おとなのけんか』を思い起こしたけど、この邦題もまぁ悪くないよね。彼らの会話は、やがていかに夫婦間に秘密がないかという話になり、それが本当なら“人生が詰まった”スマホの中身を互いにさらけ出しあおうという悪趣味なゲームに発展していくという展開。

♤ 演技力よりも脚本の巧拙に出来が左右されるタイプの映画といえるな。そのためか脚本は4人がかり。コメディ仕立てやから、7人それぞれの秘密が順番に明かされていく過程で、いろいろ取り繕ってみたり誤魔化そうとしたりするところではかなり苦笑いさせられる。

♡ スマホにプライバシーがぎっしり詰まってるのは言うまでもないことで、それを暴露しあうという発想はかえって陳腐やなぁと最初は思ったの。展開が見えるし、前段はシラけ半分で観てたんやけど、各自をめぐって順次生じていく事態がとてもうまくヒネってあって、案外よく出来てたなぁという感想。

♤ とはいえ、暴露が進むに連れてほんまに取り返しがつかない状況へと進んでいくのは、さすがにちょっと強引すぎる気がした。シナリオも、全体に作りすぎの感あり。

♡ でも暴露される事情はほんとに多種多彩で、ストレートに「そらあかんやろ!」って話もあれば、ちょっといい話もあったりする。隠された偏見が露見する苦い場面もあって、現代的な問題をうまく網羅してるのが非常にスマート。電話やメール、ショートメッセージだけじゃなく、写メやらSiriやら留守電やら、スマホにはいろんな機能が盛り込まれてるから、こんなとこからでもバレるやん!という不意のつき方はなかなか面白かったわ。

♤ 上手いなと思ったのは、ゲームが始まる前の会話の部分。集まった7人で気楽な会話が続く、この会話で互いに突っ込みを入れたりからかったりすることで、全員が長年の友達同士であることが分かってくる。だからこそ、ゲームをしようという話になったとき、ちょっとでも引いたところを見せると隠し事があるんじゃないかと突っ込まれるから、絶対後に引けない状況になってる。

♡ 気の置けない仲だからこそ、こういう無茶振りゲームにも応じざるを得ない距離感にあるってことが無理なく提示されてるんよね。

♤ どうやら男4人が幼なじみらしいのやけど、うち2人は美容整形外科医と弁護士で高学歴・高収入。食事会のホストは整形外科医で、モダンで瀟洒なアパートメントに住んでる。あとの2人はタクシー運転手と学校の教師の職を失ったばかりの独身者という対比の上にそれぞれの役柄を作ってあるのもよく考えられている。独身男がなぜ失職し、彼女を連れてこれないかも後で理由が分かってくる。

♡ 設定として面白かったのが、これって皆既月食の夜に開かれた食事会なのよね。バルコニーにはご丁寧に天体望遠鏡もセットしてある。西洋には、月食を不吉の前兆とする言い伝えもあるようやし、全員で集合写真を自撮りするとき、誰からともなくピンク・フロイドの“The Dark Side of the Moon(邦題・狂気)”のタイトルを口にする。人間の内奥に潜む狂気がテーマのアルバムなので、月の暗い陰を観るというダブルミーニングがちょっと興味深かった。エンディングの伏線なのかなという気もしたわ。で、ゲームの顛末はこれ以上ないくらい泥沼化していくわけやけど、肝心のラストは・・・案外うまくできてたね。

♤ これをハッピーエンドというかどうかは微妙やけど、隠し事のない世界も決して幸せではなさそうやと思わせて映画は終わる。僕の得た教訓は、「このまま進むと危険と思ったら、意地を張ったり体面を気にしたりせず、危険回避の選択をすること」やな(笑)

♡ 泥沼化していく強引なシナリオも、このエンディングによって説明がつくのよ。ただ色んなレビューサイトをみると、ラストの仕掛けに気づいてない人が結構いはる。私もすぐにはわからなくてちょっと戸惑ったもの。ここ、取り間違えると作品の意味がぜんぜん違ってしまうので、ご覧になる方はくれぐれもご注意を! ともあれ、コメディとはいえ怖すぎる展開。夫婦やカップルで観に行くのはお勧めできないかも。あちゃ~っと思っても手遅れ。私は知りません!

 

予告編

スタッフ

監督 パオロ・ジェノベーゼ
脚本 フィリッポ・ボローニャ
パオロ・コステラ
パオロ・ジェノベーゼ
パオラ・マミーニ

 

キャスト

ジュゼッペ・バッティストン ペッペ
アンナ・フォッリエッタ カルロッタ
マルコ・ジャリーニ ロッコ
エドアルド・レオ コジモ
バレリオ・マスタンドレア レレ
アルバ・ロルバケル ビアンカ
カシア・スムトゥアニク エバ

レクタングル336

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