レビュー

バトル・オブ・ザ・セクシーズ(Battle of the Sexes)

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Battle of the Sexes

キット ♤ 3.0 ★★★
アイラ ♡ 3.0 ★★★

70年代初頭の女子テニス世界チャンピオン、ビリー・ジーン・キングと、元男子世界チャンピオンのボビー・リッグスによる世紀のテニスマッチ「Battle of the Sexes(性差を超えた戦い)」を映画化。ビリー・ジーンには『ラ・ラ・ランド』などのエマ・ストーン。ボビーを『フォックスキャッチャー』などのスティーブ・カレルが演じる。1973年、女子テニスのトッププレイヤーであるビリー・ジーン・キングは、女子の優勝賞金が男子の8分の1でしかない激しい男女格差に憤り、仲間とともに女子テニス協会を立ち上げる。テニス協会の重鎮たちはこれを歓迎せず、彼らを代表してボビー・リッグスが彼女たちに試合を挑んでくる。ギャンブル癖で妻から愛想を尽かされかけていたボビーにとっても、この試合はやり直しのチャンス。一度は試合を断るビリー・ジーンだったが受けて立ち、世紀の一戦が始まる・・・。監督は『リトル・ミス・サンシャイン』のジョナサン・デイトン&バレリー・ファリス。

 

言いたい放題

キット♤ 1960年代から70年代にかけて女子テニス界に君臨したビリー・ジーン・キングと元男子世界チャンピオンのボビー・リッグスとの男女対抗試合(Battle of the Sexes)を描いた作品。当時は中高生くらいで、テニスには特に興味もなかったけど、新聞などで「キング夫人が…で優勝」みたいな見出しは見ていた記憶がある。

アイラ♡ 本作にもちらりとインタビュー映像が出るクリス・エバートはまだ初々しい新人。その好敵手となるマルチナ・ナブラチロワも、キング夫人のひとつ後の世代になるかしらね。

♤ 男子のビョルン・ボルグやマッケンローなども含めたテニス人気が盛り上がる前の人やから、海外のテニスの話題というと「キング夫人勝利!」くらいのことしか聞こえてこない時代ではあったかな。「キング夫人」というくらいやから、旦那のキング氏がおるんやろはとは思ってたけど、本作で初めてその存在を知った(笑) ツアーで転戦する夫人に付き添ってはマネージャーのように動き、腫れた膝を氷で冷やしてやるなど甲斐甲斐しい。最後は離婚されてしまうようなんやけど。

♡ ・・・などとテキトーなことを言ってるのも、われわれがテニスファンではないからで、実はこの2人の対決は当時たいへんな話題を集める試合だったそうなのね。そもそもは、当時の女子テニスプレイヤーが男子に比べてギャラなどの面で不当な待遇を受けていて、テニス協会側もそれを当然と思っていたこと。それに不満を募らせたキング夫人らが女性だけの協会を作ったものの、協会側は冷笑的な態度を取り続ける。これに対し、ギャンブル依存で妻との関係が悪化していたボビー・リッグスが、賭け話の延長線から2人の対戦を思いつき、彼女に持ちかける・・・という背景がある。

♤ 全米テニス協会のお歴々については、女子選手を差別するいかにも悪の権化というわかりやすい描かれ方をしてたな。

♡ では、女性選手たちがプロスポーツ界にはびこる女性差別と戦った話かというと、もうひとつビリー・ジーンがゲイであったことも重要な伏線なのよね。テニスファンではなかった私でも、彼女がカミングアウトしたのは聞き知っていたので、いってみればキング夫人は2つのマイノリティの象徴的存在ともいえる。

♤ うん。映画自体それなりに楽しめるけど、見終えてみるとここ数年のハリウッド映画の潮流であったLGBTものや、最近の“Me Too”に始まるハリウッドのセクハラスキャンダルと女性の権利主張の流れを早速取り入れた作品であることに気づく。ただ、それを描くには全体に中途半端さが残った感じがするな。

♡ あえて色濃く描かなかったのかもしれないけど、キング夫人が自らがゲイであることに気づき、献身的な夫との間に溝が入っていくところなど、もう少し描き込みようがあった気がするよね。主人公が存命中なのでそうもいかなかったのかなぁ。その点、全米テニス協会の重鎮たちの差別的な態度はほとんど漫画チックやけど、思い返せば、女性の能力を見下して当然という態度は、あの時代ではごく当たり前のものでもあったよね。

♤ その点で少し不満が残るのが、ビリー・ジーンと戦ったスティーブ・カレル演じるボビー・リッグスのキャラクターの掘り下げが浅いこと。強烈な個性を持ったボビーが、ギャンブル依存症のせいで彼女との試合へと進んでいったいきさつは分かったけど、そこへ至る心理状況の描き込みがない。そもそも彼が男女差別主義者だったのかも不明やし、もうちょっと彼の人間性を浮き彫りにしてほしかったな。

♡ そうそう。あれではただのギャンブル依存の奇矯なおっさんやわ。おもろいおっさんを演らせたらスティーブ・カレルはめちゃくちゃハマるし、独特のキャラを持ったボビーを好演してもいるんやけど、ひとつ間違うと本来シリアスである話を茶化してしまいかねない。

♤ ビリー・ジーン役には『ラ・ラ・ランド』でついにアカデミー主演女優となったエマ・ストーン。そもそも典型的な美人ではないけど、本作の役作りではキング夫人のおばさんぽいところを完全に押さえていた。スティーブ・カレルは、『30年後の同窓会』では抑えた演技を見せてたけど、ここではいい意味で地を出して弾けてた。

♡ キング夫人のメンズ仕立てのスラックスに白ベルトみたいなダサめのファッションも、当時のスポーツ女子の流行を彷彿とさせて面白かったわ。それはそうと、テニスのシーンがもっと多くてもよかったように思うけど。それに昔の試合って、ウィンブルドン経験者でもあんなちんたらしてたんかしら?

♤ 主演の2人はテニスの猛特訓を受けて、実際にプレイしてたそうやで。けど、今のテニスと比べてかなり球が遅い気がしたな。面白いのは、試合シーンを映すカメラのアングルが、当時のテレビ中継カメラと同じように固定されてたこと。これが却ってレトロなテレビ中継の臨場感を作っていた。

♡ LGBD映画であることをさり気なく強調してたと感じたのが、テニスウェアのデザイナー役に『チョコレート・ドーナツ』やTVドラマ『グッド・ワイフ』のアラン・カミングを起用してたこと。ビリー・ジーンへの「私たちの時代が来る」という一言に、映画のテーマがこめられてた思えるだけに、全体に控えめな作りだったのが惜しまれるなぁ。あと、恋人となる女性とビリー・ジーンのドライブ中、やはり後にカミングアウトするエルトン・ジョンの“Rocket Man”がカーラジオから流れる場面も象徴的。70年代前半は、後にLGDBの象徴となる人々もまだカミングアウトできない時代でもあったんやなぁとしみじみ・・・。

 

 

予告編

スタッフ

監督 バレリー・ファリス
ジョナサン・デイトン
脚本 サイモン・ビューフォイ

キャスト

エマ・ストーン ビリー・ジーン・キング
スティーブ・カレル ボビー・リッグス
アンドレア・ライズボロー マリリン・バーネット
サラ・シルバーマン グラディス・ヘルドマン
ビル・プルマン ジャック・クレイマー
アラン・カミング カスバート・“テッド”・ティンリング
エリザベス・シュー プリシラ・リッグス
オースティン・ストウェル ラリー・キング
ナタリー・モラレス ロージー・カザルス
ジェシカ・マクナミー マーガレット・コート

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