おすすめ度
無人島に流れ着き、絶望のあまり命を断とうとしていた青年のもとに溺死体が流れ着く。なんとその死体は、スイス・アーミーナイフのような多機能を発揮しおまけに喋ることもできる。青年は死体の能力を駆使しながら脱出を試みるが・・・。死体を演じるのは『ハリー・ポッター』シリーズのダニエル・ラドクリフ。遭難した青年には『リトル・ミス・サンシャイン』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』などで若手きっての演技力をみせるポール・ダノが扮し、2人で奇想天外のサバイバルを繰り広げる。CMディレクター出身ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート(通称:ダニエルズ)の初長編作。2016年サンダンス映画祭やシッチェス・カタロニア国際映画祭などでの受賞で話題となった作品。
言いたい放題
アイラ♡ 終わってみれば、おならにはじまりおならに終わる話やったね~。総じて私の好きな作品ではある。
キット♤ 場面の9割がたは登場人物が無人島に漂着したハンク(ポール・ダノ)と、溺死体のメニー(ダニエル・ラドクリフ)の2人だけ。それも絶望で自殺しようとしている男と、十徳ナイフのようにいろんな機能を持っている死体という組み合わせなのでかなりシュール。
♡ オープン環境下での密室劇なんよね(笑) さすが、CMやミュージックビデオの監督コンビということで、イメージ映像の挿入などの手並みは鮮やか。おとぎ話っぽい映像がぱっぱっと差し替わるのはTVCMっぽくてちょっとあざとい印象やったけど、そもそも死体が喋ったりするような奇想天外すぎる設定なので、それはそれという気もした。
♤ 事前に劇場予告を見ていたので、死体が喋るシュールなシチュエーションはまぁ想定済みで、それほど驚くことはなかったな。ただ、ポール・ダノがダニエル・ラドクリフを水上スクーターのように使って海上を疾走する場面も予告にあったので、無人島で2人で四苦八苦した後、最後に海に出て脱出するんだろうと想像してたけど、予想はあっさりと裏切られる。2人が出会って間もなく、件の水上スクーターで島から脱出してしまって、別の海辺にたどり着いたところで森の中での共同生活が延々と続いていく。
♡ 死体のベニーが動き出すまでは、ハンクの一人芝居が続くので、このままだと退屈かなと思っていたけど、ベニーの万能ぶり(?)が次々と披瀝されるあたりから俄然楽しくなっていったわ。
♤ このあたりの絵の作り方は幻想的な感じもあって悪くない。ただ死体の口から飲み水出るとか、雑誌を見て欲情したりとか、品がないというか生理的にちょっとなぁと思わせる。このあたりから、観る側としては、このきてれつな十得死体をどう結末に持っていくのかが関心事になってくる。
♡ 私は、ベニーがハンクの深層心理をわかっている感じなのがずっと気にかかりつつ観てた。特に性的なことにベニーが異様に関心を持つことの奇妙さというか・・・。単にシュールなファンタジーとして余計な憶測なしに観るのがよいという考え方もあるやろし、あえて解釈しようとするなら、ベニーの脳内妄想という見方もできそうよね。引っ込み思案で父親との間にも確執を抱えてきたベニーは、恋愛もうまくいかず、近所の人妻にストーカーまがいの行為を働いていて、あげく精神面で何かあって家を出ることになったけど、実は近くの浜辺と森をさまよっていただけ。ベニーをはじめ、そこで見たもの経験したものは、すべてハンクの頭のなかで起きたこと・・・と考えれば、まぁ辻褄は合うのかな。
♤ 人によって解釈は違うやろけど、そのあたりが妥当やろな。たとえメニーが実在していたとしても、それはただの死体やったと。ラストのラストに捻りがあるけど、それも含めてハンクの妄想ということにしておく。
♡ ともあれ、死体を万能のサバイバルツールとして利用しようという発想が私はとても楽しくて、劇場予告で知ってから早く観たくてしょうがなかった。何といっても、主演がポール・ダノ。『リトル・ミス・サンシャイン』の言葉を発しない青年、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の偏執的な説教師、『ラブ&マーシー』でのブライアン・ウィリアムス役など精神的な問題を抱えた人間をここまで演じられる若手はそういない。本作も、もし主人公が狂気の人なんだとしたら、ラスト直前まで正気そのものの顔でこれだけの演技をみせたことに驚嘆する。
♤ ダニエル・ラドクリフは『ハリー・ポッター』シリーズのイメージが強すぎて苦労しているのではないかと思うが、誰も演りたがらないようなこの死体の役に挑戦したことは評価したいな。
♡ 日本であまり公開されていないだけで、映画ではフランケンシュタインのイゴール役とかゲイの青年役とか、ブロードウェイで『エクウス』に全裸で出たりとか、いろんなことに挑戦してる。本作も死体役を楽しんでたというから、先々楽しみにしてるのよ。ということで、俳優2人には大いに楽しませてもらったけど、最後の落とし方がわかりくくて難があったので、ややポイントを下げました。
予告編
スタッフ
監督 | ダニエル・シャイナート |
ダニエル・クワン | |
脚本 | ダニエル・シャイナート |
ダニエル・クワン |
キャスト
ポール・ダノ | ハンク |
ダニエル・ラドクリフ | メニー |
メアリー・エリザベス・ウィンステッド | サラ |