おすすめ度
キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 4.0 ★★★★
クリント・イーストウッドが、2015年にヨーロッパで起こった無差別テロ事件を題材に、実際に現場に居合わせた3人のアメリカ人を起用し、彼らの幼少時から事件までをドキュメント風に綴ったドラマ。アンソニーとスペンサー、アレクの3人は小学校のときからの幼馴染み。優等生ではなかったが、ごく普通の青年に成長した彼らはヨーロッパへの休暇旅行を楽しんでいた。そして彼らがアムステルダムから乗り込んだ15時17分発のパリ行き列車でテロ事件が発生する・・・。
言いたい放題
キット♤ 最近は実話に基づく映画ばかりのクリント・イーストウッド監督の最新作。しかも今作は、テロの犯人以外は主演の3人を含む事件の当事者たちを集めて制作。場所も時間も当時をそのまま再現してるというから徹底している。俳優に状況を教えたり演技指導したりする手間が省けるってことはあるにしても、かなり大胆かつ実験的な試みであることには違いない。
アイラ♡ 前作『ハドソン川の奇跡』でも、緊張する機内の描写にかなりの迫真性を持ち込んでたけど、今作はドキュメンタリー寸前のリアリティ表現やね。なんでも、事実確認のために3人を呼んだところ、あまりにいい雰囲気だったので映画に出ないかという話になったんやとか。
♤ たしかにトム・ハンクスのような演技の深みはないけど、3人ともかなり頑張ってたし、事件の再現場面もドキュメンタリー風でこれはこれで悪くなかった。
♡ それ以上に本作が実験的といえるのは、肝心のテロの実行に関わるシーンはごくわずかで、むしろ3人の生い立ちを描くことに大半の時間を費やしていること。
♤ パリ行きの列車で起こったテロ未遂事件の格闘シーンは、時間にすればわずか数分間。犯人の背景には一切触れず、犯人の姿も短いショットでちょこちょこ挿入しているだけ。ほかは幼馴染みである3人の子供時代のことや、3人で休暇を取ってヨーロッパを遊びまわる場面が大半を占める。
♡ よく考えるのやけど、たとえばあまりに凶悪な連続殺人事件が起きたときや、誰も真似できないような勇敢な行動をとった人の話を聞くとき、その人たちは一体どんな育ち方をしたんやろ、親からどんな価値観を与えられてきたんやろ・・・ってね。ひょっとしたらイーストウッド監督も、そんな引っ掛かりから本作を作ったんじゃないかな。実際、彼ら3人は優等生ではないし、小学校の担任からも注意欠損児童と決めつけられるはみ出し者やったりする。そんな息子たちを信じて、教師ともやりあう母親たち。本作がそんな説明に時間をかけたのは、生い立ちがこそが彼らの価値観そのものということを語るためで、決して時間つぶしじゃないのよね。現に、ミリオタが高じてなのか軍隊を志望した主人公格のアンソニー・サドラーは、不器用ではあるけど、常に何か高邁ほどの真面目さをもってたし・・・。
♤ 軍で身につけたことは、テロリストに立ち向かうときにも生かされてたしな。自分たちにはそれができるという自信が身に付いてたんやろね。ジュージュツとかもな。
♡ 典型的な若者たちの軽いノリの休暇旅行で、パリにも行く予定ではあったけど、それほど乗り気ってわけでもなかった。でもサドラーは「本当に行くべきでないんだったら、そのようになる・・・」みたいなことを口にしつつ予定通りパリへ向かう。つまり運命が、あるいは神が、自分たちをあの列車に乗せたんだという考え方なわけで、それが本作の大切なところ。キリスト教徒というベースがあるにせよ、人生は然るべき方向へ導かれるということが作品のテーマなんやと思ったな。
♤ 演出について感じたのは、94分という尺を短いと感じさせないイーストウッド監督のうまさ。たとえば犯人を取り押さえた後に、犯人とけが人を列車から運び出して連れていくところなどは、特に必要はなさそうなシーン。でもこれがあることで、格闘シーンの緊張からの解放がある。かつこの場面もダレてしまわない程度に抑えている。こうした映画もたまにはええけどね。イーストウッドの次作は『スター誕生』のリメイクらしいので、どんな映画になるのか楽しみやな。
予告編
スタッフ
監督 | クリント・イーストウッド |
製作 | クリント・イーストウッド |
ティム・ムーア | |
クリスティーナ・リベラ | |
ジェシカ・マイヤー | |
製作総指揮 | ブルース・バーマン |
原作 | アンソニー・サドラー |
アレク・スカラトス | |
スペンサー・ストーン | |
ジェフリー・E・スターン | |
脚本 | ドロシー・ブリスカル |
撮影 | トム・スターン |
キャスト
アンソニー・サドラー | アンソニー・サドラー |
アレク・スカラトス | アレク・スカラトス |
スペンサー・ストーン | スペンサー・ストーン |