おすすめ度
キット ♤ 3.0 ★★★
アイラ ♡ 3.0 ★★★
旧ソ連の官僚主義を痛烈に批判した風刺コメディ『青い山 本当らしくない本当の話』などで知られるジョージア映画界の最長老監督エルダル・シェンゲラヤのヒューマンコメディ。政府の要職に就くギオルギは、大臣の椅子の座り居心地を満喫していた。娘との折り合いはあまりよくないものの、長い独身生活の末に新しい恋人もできたいまの暮らしを楽しんでいたところ、突然大臣をクビになる。ジョージア国会副議長など、政界で活躍した監督自身の経験をベースに、素朴でおおらかなユーモアで権力社会を風刺し、葡萄畑が広がる故郷への愛をうたいあげる。
言いたい放題
アイラ♡ ジョージア(グルジア)の映画を観るのはたぶん初めてね。エルダル・シェンゲラヤ監督は85歳。知る人ぞ知る存在のようやけど、なんとも独特の味わいを持つ作品
キット♤ 良質な作品を紹介し続けている岩波ホールでの上映やったけど、この邦題はいただけない。ごく最近『おかえり、ブルゴーニュへ』という映画を観たばかりで、ほぼ反射的に同じような田園地帯を舞台にした映画なのかと想像してしまってたけど、実は全く異なるタイプの作品。よくよくみれば英語のタイトルは“Chair”で、こちらこそが作品のテーマ。日本版ポスターも思わせぶりで誤解を招く、というか誤解させようという意図が見え見えやなぁ。
♡ 正直ちょっとテンポが合わなくて、作品の良さを味わいきれなかった無念が残るのやけど、素朴ながら風刺とユーモアにあふれた作風で評価を集めてるみたいね。
♤ たしかにかなり風変わりな作品で、コメディなんやけどリアリティのある部分とナンセンスな部分とが入り混じって、不思議な雰囲気を醸し出している。タイトルにあるように「椅子」が冒頭から出てくるが、この椅子が話したり、勝手に動いたり、主人公を乗せて公道を走ったりするのが荒唐無稽な部分の代表。それ以外にも主人公のギオルギが「国内避難民追い出し省」という役所の大臣だったり、そこで働く職員がローラースケートを履いていたりとか、シュールな場面が盛り込まれている。
♡ 「難民追い出し省」という役所の存在にドキッとさせられるけど、難民を追い出すべく視察に行ったギオルギは、そこに暮らす難民女性に一目惚れ。与党が選挙に大敗して彼は大臣の座から追われるけれど、彼女と結婚して楽しくやってる。でも不正な手段で手に入れたといわれて家から追い出され、裁判にも負け・・・と下り坂に。
♤ その合間に、上昇志向の強すぎる補佐官とか、汚職が当たり前になっている政治家とか、主人を裏切って密告する使用人とか、ジョージアの現状を風刺しているのかと思わせられるシーンが次々と描かれる。大臣をクビになるギオルギ自身は「賄賂を要求したことはなかったが、くれるものは拒まなかった」と言ってのけるくらいなので、比較的ましな方だったかもしれないが、不正は行っていたということ。住んでいた豪華な自宅は首相の口利きで格安で手に入れたものだし、輸入品の「椅子」も公費で購入したもの。大臣を辞める際に、後任の大臣がゲオルギにその椅子を持っていくように勧めるところでも公私混同が普通になっていることを暗示している。
♡ まさに「椅子」がもうひとつの主人公。大臣室に置かれた椅子はゲオルギの特注品で、権力の象徴やし、権力を掌中におさめて有頂天になる彼の心理を表現するツールでもある。
♤ 「椅子」を手に入れたとたん、古い椅子を補佐官にお下がりとして与えたり、後任の大臣がゲオルギの椅子を欲しがらないところなど、自分の「椅子」を持つことが権力の象徴のように使われてる。ラストシーンは、大臣を退いて母親のもとへ家族ぐるみで移って5年後、かつての補佐官が首相になったことを知ったゲオルギが、保管していた「椅子」を崖から落としてバラバラにするところ。ということは、引退したあとでも過去の大臣の職に未練を持ち続けていたということか? よく分からないところもあるが、不思議な映画。
♡ しかもバラバラになった椅子は自動的に元通りになる。“権力”とはそういうもの・・・という監督の思いが暗に込められているのでしょうね。それに対して、「ここがお前の家」というゲオルギの老母が暮らす田舎の葡萄畑の美しさ。ジョージアの人々の心の原風景なんやろね、きっと。
予告編
スタッフ
監督 | エルダル・シェンゲラヤ |
脚本 | エルダル・シェンゲラヤ |
ギオルギ・ツフベディアニ |
キャスト
ニカ・タバゼ | ギオルギ |
ニネリ・チャンクベタゼ | マグダ |
ケティ・アサティアニ | ドナラ |
ナタリア・ジュゲリ | アナ |
ズカ・ダルジャニア | ニカ |
バノ・ゴギティゼ | アルメン |
メラブ・ゲゲチコリ | ダト |
ビタリ・ハザラゼ | バトゥ |
アーロン・チャールズ | マルハズ |