レビュー

フロントランナー(The Front Runner)

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おすすめ度

キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

The Front Runner『X-MEN』シリーズや『グレイテスト・ショーマン』のヒュー・ジャックマンが、スキャンダルにより米大統領選から脱落した実在の政治家ゲイリー・ハートを演じる。監督は『マイレージ、マイライフ』『JUNO ジュノ』のジェイソン・ライトマン。1988年アメリカ大統領選。史上最年少の46歳で民主党の大統領候補となったゲイリー・ハート上院議員は、予備選で最有力候補として一気に注目を浴びる。若くハンサムな風貌、自信に満ちた演説ぶりからジョン・F・ケネディの再来といわれ、人気を集めたハートだったが、ある出来事が地方紙の記者にすっぱ抜かれ、支持率が急落しはじめる。

 

言いたい放題

キット♤ 「フロントランナー」とはその言葉の通り「先頭を行く人」。ただしここでは大統領選挙の「最有力候補者」という意味。本作はフィクションではなく、1988年の大統領選挙で最有力候補と目された民主党のゲイリー・ハート上院議員の実話に基づいている。『ファースト・マン』なども同じだが、実話に基づく映画は勝手に話を改変できないだけに、主人公が相当な個性や魅力を持たない限り地味なものになりがち。ましてやゲイリー・ハート上院議員の名前はうっすらと記憶にある程度。劇場予告では何度も目にしたけど、興行成績はあまりぱっとせず、他の多くの映画の中に埋没しているかのようだった。

アイラ♡ とはいえ、地味な素材なりに示唆するところも多く、なかなか面白い作品ではあったと思うわよ。

♤ 映画は4年前の大統領選挙に名乗りを上げるも夢叶わず、撤退するハートを描くところから始まる。しかし敗戦にくよくよすることなく、前向きに次に向かっていく姿を見せて場面は4年後に飛ぶ。より賢く強くなったハートは、民主党の最有力候補となっている。すべては順調だった・・・。

♡ ところが本作が描く3週間という短い時間のなかで、ハートは絶好調からどん底まで転落する。

♤ その過程が本作の見どころ。要はハートの下半身がゆるゆるで、選挙事務所の若い女性との関係を地方紙にすっぱ抜かれたのが失敗の原因。こういう見方はどうかとも思うが、大統領になってからだったら、同じことをしてもクリントンのようにもみ消すことが出来たかもしれない。ただ、ハートはリーダーシップ、先見性、見た目の良さなどから、有能な大統領としての資質の持ち主であるように描かれてはいるけど、こと女性問題に関しては選挙参謀や側近がその話題に触れることを嫌い、冷静な対策検討を行わないばかりか激高するばかり。大統領としてはストレスに弱く、真の資質には欠けるのではないかと思ってしまった。

♡ 勢いに乗りきった若手政治家は、女性からみてもなかなか魅力的な存在やろし、候補者が自分の選挙事務所のスタッフに手を出すようなことは世界中で起きてるとは思う。ただ、それが政治家生命を脅かすようなスキャンダルになったとき、どう対処するかが当人を担ぐ側近たちの重要な仕事。その点で、彼の選挙参謀たちはあまりに無能だったんじゃないかな。

♤ そこで本作のもうひとつの要素であるマスメディアの存在が出てくる。面白かったのは、大統領候補が全国を遊説する際に、各メディアの番記者が飛行機やバスに同乗してぞろぞろと付いていくこと。もちろん誰もが特ダネを狙って取材したいんやけど、特別待遇を与えられているのがワシントン・ポスト。飛行機などでもすぐ隣の席を与えられ、ハートとじかに会話する機会も多い。そんななかで、三流紙のマイアミヘラルドがハーツの不倫疑惑をすっぱ抜く。それを見たワシントン・ポストの編集長のいう「ポストはそういう下世話なネタを扱わない高みの存在だったが、今となっては扱わないと非難される」という言葉が、メディアの世俗化を物語っていて興味深い。

♡ ハートには、それでもまだまだスキャンダルをやり過ごし、大統領候補として突き進むだけのチャンスはあったと思うのやけどねぇ。

♤ ついに不倫相手にまでメディア取材が押しかけ、問題は肥大化。でも記者会見を開くことになってもまだ、ハートには十分な勝算はあったと思う。不倫について聞かれた場合も、記者の質問が軽ければ冗談で受け流すくらいの才覚もあっただろう。もしも不躾に不倫に突っ込んできたとしても、その不躾さを逆手に取って拒絶するという作戦やったと思う。ところが常に厚遇し、身内同然と思っていたワシントン・ポストの若い番記者が真面目すぎ、真正面から直球勝負をかけてきた。ここでハートがしどろもどろになり、自分に致命傷を与えてしまうのがなんとも皮肉なところ。

♡ まさかポストが初っ端から不倫問題を突いてくるとは・・・という驚きがそのまま顔に出てしまったところが、ハートの政治家としての未熟さ。娘にまで取材が押し寄せていると知ったとき、彼にはそれ以上を戦う気力は残されていなかったのね。

♤ マスメディアは事実を報道するだけでなく権力に対する監視役でもあると思うけど、その質は玉石混交で、匙加減一つで世の中が大きく変わってしまう危うさを持っていると改めて思った。インターネットが普及し、フェイクニュースなどの危険性がさらに増している現代社会。自らフェイクを乱発しながら、気に入らない報道をフェイクニュースと決めつけるトランプ大統領へのやんわりとした批判と見るのは考えすぎ?

♡ 大統領の資質というものが本作のテーマなのだとしたら、いま史上類をみないほど資質に欠ける大統領を戴く国への最大の皮肉といえるかもしれないわね。スーツを端正に着こなし、知的で精力的なハートを演じるヒュー・ジャックマンはとってもかっこいい。逆に、心理的に追い詰められて顔に不安や焦りが出てくるところも、頼りなさげでよかったけど、もう少し不倫スキャンダルに対するハート自身の内面が描かれていたらよかったかな。

♤ 当たり役のウルヴァリンを卒業し、ヒュー・ジャックマンは本格的な性格俳優としての道を目指しているように見える。10年前の『オーストラリア』ではニコール・キッドマンと一緒にコケたけど、『レ・ミゼラブル』や『プリズナーズ』でもいい味を出していたので、これから歳を重ねて良い俳優になっていきそう。

 

予告編

スタッフ

監督 ジェイソン・ライトマン
原作 マット・バイ
脚本 マット・バイ
ジェイ・カーソン
ジェイソン・ライトマン

キャスト

ヒュー・ジャックマン ゲイリー・ハート
ベラ・ファーミガ リー・ハート
J・K・シモンズ ビル・ディクソン
アルフレッド・モリーナ ベン・ブラッドリー
ケイトリン・デバー アンドレア・ハート
モリー・イフラム アイリーン・ケリー
クリス・コイ ケヴィン・スィーニー
アレックス・カルポフスキ マイク・ストラットン
ジョシュ・ブレナー ダグ・ウィルソン
トミー・デューイ ジョン・エマーソン
マムドゥ・アチー A・J・パーカー
アリ・グレイナー アン・デヴロイ
スティーブ・コールター ボブ・カイザー
スペンサー・ギャレット ボブ・ウッドワード
スティーブ・ジシス トム・フィドラー
ビル・バー ピート・マーフィー
ケビン・ポラック ボブ・マーティンデール
マイク・ジャッジ ジム・ダン
サラ・パクストン ドナ・ライス
トビー・ハス ビリー・ブロードハースト

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