おすすめ度
キット ♤ 2.5 ★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆
『ロブスター』のヨルゴス・ランティモス監督が、ひとりの少年のために家族が崩壊していくさまを描くサスペンススリラー。第70回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した。心臓外科医のスティーブン(コリン・ファレル)は、妻のアンナ(ニコール・キッドマン)と2人の美しく優秀な子どもたちとの幸せな家庭生活を営んでいた。しかしスティーブンには謎めいた少年マーティンがつきまとうようになり、彼を自宅に招いたことをきっかけに、子どもたちを不可解な病が襲う。やがてその理由を知らされたスティーブンは容赦ない選択を迫られ、家族全員が次第に追い詰められていく。謎の少年マーティンを『ダンケルク』のバリー・コーガンが好演。
言いたい放題
キット♤ カンヌ国際映画祭で脚本賞受賞、ニコール・キッドマン、コリン・ファレル主演ということで、劇場公開日の最終日の最終回に観に行った。結論からいって、主要な俳優であるキッドマン、ファレル、そしてバリー・コーガンはよかったけど、脚本はどうもビミョーやは。
アエラ♡ そう? 私はかなり気に入ったよ。
♤ スリラー/サスペンス物は、必ずしも作品中で筋を逐一説明する必要はないと思うけど、観る側が推測と想像で不足部分を補って物語を紡ぐできるだけの最低限の論理性を持つべきだというのが持論。もちろんそれに該当しない映画もあって構わないけど、その場合は論理なんかを超越してぶっ飛んだ内容の映画でないとあかん。その点からいうと、本作は残念ながら前者でも後者でもない。
♡ う~ん、そんなに無理があったかな?
♤ 冒頭の心臓手術の気味悪いシーンとか、ファレルとコーガンのなぜか不安を掻き立てるセリフ棒読みのような会話とか、コーガンの不気味な見た目と行動とか、ええ部分はあるのに子どもたちの原因不明の病気とコーガンとの関係がしっくりこないまま映画が終わってしまった感じ。例えば、コーガンをはっきりと超能力者ということにしてしまえば、それなりに納得できたかもしれない。
♡ 私は逆に、スリラー/サスペンスの形をとったサイコホラーという見方をしてた。ホラー作品にはこうした不条理はたびたび登場するし、バリー・コーガン演じるマーティン少年が、復讐のために一家に呪いをかけるという設定にも違和感はないでしょ。
♤ そうかなぁ。どうも大筋で納得できないとそれ以外のところも気になるもので、前半から中盤にかけての不安を増長するような音楽の使い方もあざとさを感じてしまった。
♡ 音楽というかいたずらに増幅させたような効果音は、ちょっとやりすぎ感があったね。でも、たとえばエレベーターの小さな回転音や、ニコール・キッドマンが使うデンタルフロスの弾ける音などを敢えて耳ざわりな感じにしつこく聴かせる手法は面白いと思った。
♤ そもそも、なんでスティーブン(コリン・ファレル)はマーティンを家に連れてきたんや。
♡ そこの説明はないけど、マーティンの言う通りだとしたら、スティーブンにはマーティン母子への贖罪の思いがあるわけで、しかも母親に手を出したのが本当なら、マーティンへの後ろめたさも当然ある。だから彼に金をやり、高級時計を贈ったりもしたんでしょう。最初は純朴そうにみえたマーティンやけど、「そんなもんでごまかすなよ・・・」とばかりにじわじわと家族にとりつき、精神的に追い詰め、皆を愚行へと走らせていく・・・。そして何もしていない息子のボブがいわば生贄として選ばれる。というか、マーティン親子や自分の家族に対して抱え持つスティーブン自身の罪深さが、彼に現実的な悪夢を見させているという考え方もできると思った。
♤ けど、最後のロシアンルーレットみたいな場面は無様で失笑してしまった。最終的には好みの問題かもしれないが、いまひとつ入り込めなかったな。
♡ 前半の主な舞台は清潔で無機的な感じの病院内部と、これまたきれいに整えられたスティーブンの自宅。ところが後半、マーティンが本性を現してから画面には血の色が混じりだし、実はそれほどうまく行っていたわけでもない家族はどんどん崩壊していく。妻に病状が現れない理由も見え隠れする。前半と広範の味わいの違いも、私には面白いところやったわ。後半は不愉快なシーンも多いし、好きかといわれると微妙やけどね(汗)
♤ 監督はギリシャ人のヨルゴス・ランティモス。「アウリスのイピゲネイア」というギリシャ悲劇を下敷きにしているとのことで、それはトロイ戦争の際にギリシャの大将アガメムノンが娘のイピゲネイアを生贄にするという話。劇の最後にイピゲネイアが生贄の鹿と入れ替わるうんぬんという部分があり、タイトルの「鹿」はここから来ているんやろな。なので、“Sacred”は「聖なる」ではなく「生贄の」と訳すべき。
♡ 全編を通じて、ギリシャ悲劇のどこをどう踏襲しているかがわかればもっと面白いやろなと思う。調べると、アガメムノンがアルテミスの可愛がっていた鹿を射殺し、かわりに娘を生贄として捧げるよう求められるという話なんやね。捉えられたマーティンが自分を傷つけ「メタファー」だと言い募る場面はもっとも強烈。何が何のメタファー(隠喩)なのかもよくわからないのやけど・・・。バリー・コーガンのほとんど表情を変えない不気味な演技は、ちょっとやそっとでは忘れられそうにないわ。
予告編
スタッフ
監督 | ヨルゴス・ランティモス |
脚本 | ヨルゴス・ランティモス |
エフティミス・フィリップ |
キャスト
コリン・ファレル | スティーブン |
ニコール・キッドマン | アナ |
バリー・コーガン | マーティン |
ラフィー・キャシディ | キム |
サニー・スリッチ | ボブ |
アリシア・シルバーストーン | マーティンの母 |