レビュー

ビューティフル・デイ(You Were Never Really Here)

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おすすめ度

You Were Never Really Here

キット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

『ザ・マスター』『教授のおかしな妄想殺』のホアキン・フェニックスと『少年は残酷な弓を射る』のリン・ラムジー監督のタッグによる意欲作。カンヌ国際映画祭で男優賞と脚本賞を受賞。痴呆の母と暮らし、PTSDに苦しむ元軍人のジョーは、行方不明者の救出を請け負い生計を立てていた。政治家の娘ニーナの捜索依頼を受け、無事探し出したのもつかの間、ニーナはジョーの目の前で再びさらわれてしまう。黒幕は誰なのか・・・。『少年は残酷な弓を射る』も担当したレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドが音楽を担当。

 

言いたい放題

アイラ♡ これはしびれたなぁ~。どういうジャンルに分類すればいいのかわからないけど、映像の美しさ、編集の切れ味の良さ、音楽のシャープさ・・・それらが一体となって、一言で言い表せない世界を作っている。

キット♤ 劇場予告を観て、流血場面の多いバイオレントな映画なんやろと思ってた。主演のホアキン・フェニックスが人を殺すためにハンマーを買って、それを振り回すのも分かっていたので、凄惨な殺戮シーンを予想してちょっとびびってたんやけど、実際には意外と血は流れない。10人くらいはハンマーでぽこぽこ殴り殺してるのやけど、監視カメラの映像を経由したりしてグロテスクな場面をアップで見せるようなことはしない。それどころか、血を見せるシーンはそれなりに多くて、バイオレンスものとしては想定内ではあるものの、ホアキン・フェニックスは不自然なくらい返り血を浴びていないし。

♡ その点だけでも、これがバイオレンスもののジャンルに入る作品とは言い難いのよね。でも血の見せ方はすごくうまいよね。十分すぎるくらいバイオレントさは伝わってくるのやから。ただし、物語は決してわかりやすくはない。主人公のジョー(ホアキン・フェニックス)は従軍経験のある男で、痴呆の出はじめた母親と暮らしている。行方不明者の捜索を請け負って生計を立て、その際に人を殺すこともある。あるとき人身売買組織に捉えられている政治家の娘を救い出す仕事を受け、無事救出するも彼女はまた何者かによってさらわれてしまう・・・。黒幕は誰かというサスペンスものでもあり、荒っぽい方法で仕事を片付けていくアクションものという側面もあるけど、どちらでもないともいえる。

♤ ホアキン・フェニックスってあまり饒舌に喋りまくるイメージではないけど、本作のジョーも実に寡黙でセリフの少ない役。彼の過去についても、母親との会話で20年前に付き合っていた女性がいたとわかる程度で、かつて軍人だったこと、チョコレートをあげた子供がチョコレートを持っていただけの理由で他の子供にあっさり殺されるような過酷な戦地へ送られていたこと、子供時代に親から虐待を受けていたらしいことなどが、ところどころに挿入される映像で見せる。それらの結果として、彼がいまもPTSDで苦しんでいて、薬物依存もあるようだということが分かってくる。

♡ それもフラッシュバックのように過去の自分をぱっぱっと挿し込むだけなので、観る側にはかなりの想像力が必要。原作では詳細に書かれているらしいけど、でもその切れ味のいい編集が全体に緊張感を与えてる。殺しの場面はすごく多いのに、ほとんどすべて遠回しに描いていて、こっちは何が起きているのかを感覚で察知しなくてはならないから。

♤ ジョーの人となりを唯一垣間見ることができるのが母親との関係。『サイコ』を観て眠れないという母親の枕元についていてやったり、水を溢れさせたバスルームの床を黙々と掃除したりする優しい一面をフェニックスはうまく演じている。母親を池に沈めて葬るシーンは『シェイプ・オブ・ウォーター』を思わせる。映像は全編を通してきれいやけど、昼間よりも夜の暗闇の撮り方がよかったな。

♡ そうやね。カメラワークのきれいなことは特筆に値すると思った。もうひとつはサウンドトラック。緊張感が高まるところではノイズめいた金属音を大きな音で鳴らすけど、これが意外に不快じゃない。音楽担当はレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドで、彼は『ファントム・スレッド』でオスカーにノミネートされてるけど、それとは全く異なるアプローチで劇的効果を高める音づくりをしてるのでびっくり!

♤ 音楽といえば、ジョーが母親を殺したエージェントに瀕死の重傷を負わせ、2人並んで手をつないで歌を唄う場面が、変やねんけどなんかいい感じやったな。

♡ あれ、80年ごろに『愛はかげろうのように』ってタイトルで日本でもヒットした曲やけど、てっきり甘ったるいラブソングかと思ってたら、字幕みてぶっ飛んだ歌詞だったと知ってまたびっくり。奔放に生きてきたことを悔いるように I’ve been to paradise, never been to me.「いまだ本当に自分がわからない・・・」と歌ってる。原題の『You Were Never Really Here』と絡めているのかもね。

♤ 物語は、少女ニーナ(エカテリーナ・サムソノフ)を救出したあとで急展開。ここからサスペンス色が濃くなるけど、そこでも意外な結末が待っている。ただ、そこでジョーが精神的に参ってシャツを脱いで上半身裸になるのは意味不明。見ていてあまり美しくないだけに・・・。

♡ 筋骨隆々の身体が現れるよりもリアリティがあってええやん。ガタイはええし、あの身体でハンマー1本でぼこぼこ人を殺していくのやから(笑)

♤ ニーナを発見したとき、彼女がジョーに「大丈夫」と言うのやけど、「I’m Okey.」ではなく「It’s Okey.」と言っている。自分ではなく、いまの状況が大丈夫という意味なんやな。そう考えると少女のニーナは意外と大人っぽく現実を受け入れていて、それがラストシーンでの「It’s a beautiful day.」に繋がるような気がする。それが、普通に考えれば絶望的な将来が待つ2人にとって、もしかしたら何か希望があるかもしれないと思わせる。

♡ 出番もセリフも多くないけど、大きな存在感を残す子よね。今回の邦題は終盤での2人の会話から来てるけど、原題は日本語にしにくいし、今回のはわりとええのと違うかしらね。

 

 

予告編

スタッフ

監督 リン・ラムジー
脚本 リン・ラムジー

キャスト

ホアキン・フェニックス ジョー
ジュディス・ロバーツ ジョーの母
エカテリーナ・サムソノフ ニーナ
ジョン・ドーマン ジョン・マクリアリー
アレックス・マネット ヴォット議員
ダンテ・ペレイラ=オルソン ジョーの子供時代
アレッサンドロ・ニボラ ウィリアム知事

レクタングル336

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