レビュー

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法(The Florida Project)

投稿日:2018年5月16日 更新日:

おすすめ度

The Florida Project

キット ♤ 2.0 ★★
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

全編iPhoneで撮影した映画『タンジェリン』で評価されたショーン・ベイカー監督作品。フロリダのディズニー・ワールド近くの安モーテルに住む貧困者層に視点を置き、彼らの日々を6歳の少女ムーニーの視点から描く。失職中でその日暮らし同然の母親ヘイリーと娘のムーニー。モーテルにはさまざまな境遇の人々が集まり、同じような中で暮らす子どもたちは気ままに屈託なく育った悪ガキそのもの。管理人のボビー(ウィレム・デフォー)は、そんな彼らに業を煮やしながらも温かく見守りつつ、管理人としての勤めを果たしている。だがある出来事を機に、ムーニーの無邪気な子ども時代も終わりを迎えようとしていた。ムーニー役にフロリダ出身の子役ブルックリン・キンバリー・プリンス、母親ブレア役にはInstagramで発掘された新人ブリア・ビネイトが抜擢された。

 

言いたい放題

キット♤ 好き嫌いがはっきり分かれそうな作品。フロリダのディズニー・ワールドの近くのモーテルで暮らすシングルマザーのヘイリーと娘のムーニーを取り巻く同じ貧困層の人たちやモーテル管理人の毎日を描いてる。けど、始まって最初の5分ほどで、ムーニーたち近隣のモーテルに住む就学期の子供たちのタチの悪いいたずら、耳に障る甲高い声、礼儀正しさとは対極の言葉遣いに疲れてくる。それでもなお、シチュエーションを変えて悪ガキのいたずらの限りを見せつけてくる。

アイラ♡ 現にこうして好き嫌いが分かれたね。オープニングから延々と見せられる子どもたちの様子は、やっていいことと悪いことの区別もつかない度を超えたいたずらや、自然に身についたとは思えない悪態の連続。若い母親は子どもを放ったらかしで、ろくな躾もしていないことが何度も刷り込まれ、こちらも相当うんざりさせられる。

♤ ムーニーの母親ヘイリーはせいぜい20代半ばというところか。他人と接する態度、言葉遣い、知らない人に小銭を無心するところなど、小さい娘と何ら変わらない。精神状態は子供のまま大人になったという感じがして辟易する。

♡ そうした設定への嫌悪感を抱いたまま観終わるかそうでないかで評価が極端に割れるんでしょうね。私の場合は、観ていくうちに野放図な育ち方ながらも子どもたちの無邪気さが可愛く思えてきた。35mmで撮った手ブレ感のある映像はいきいきして、パステルカラーに塗られた建物や真っ青なフロリダの空とあいまって何ともマジカルな世界が現出してくるのが本作のひとつの魅力と思う。

♤ 非常識そのものの母親も、彼女なりに娘のことは可愛がっていて仲もいい。でも現実に目を向ければ、この母娘が貧困環境から抜け出せる可能性はゼロであるばかりか、悪い方へと進んでいることが見えてくる。

♡ ムーニーの置かれた状況は劣悪。安モーテルとはいえ月1000ドルかかり、母親は偽物や盗品の転売や売春でわずかな金を稼ぐ以外何もしない。おそらく10代で妊娠して、学校にも行かず職にもありつけず、まっとうに生きる術や子供の育て方を身に着けないまま来てしまったんでしょう。でも娘を愛してることはわかる。

♤ だからこそ何か希望のようなものが示されるのではと期待するのやけど、結局何も好転せず時間だけが過ぎてしまった印象。

♡ 最初は子どもの視点でこの世界を観ていくのやけど、途中から母親の心境で観ていくようになる。やがて喧嘩することになるママ友住人はそれなりに職を得ているのに、ヘイリーはとうに負のスパイラルに入ってしまっている。彼女は同情さえわかないけど、その絶望感は伝わる。薬物依存や虐待親でないだけマシかもしれないけど、ムーニーも10代になれば母と同じような道をたどる可能性が高いわけで、だからこそ、超悪ガキとはいえキラキラした子供時代真っ只中にいるムーニーたちには、“せいぜいいまを楽しめよ”って言いたくなる何かがあった。

♤ ラストで友達のジャンシーがムーニーの手を引いてディズニー・ワールドへ連れていくけど、これをもって邦題の「真夏の魔法」というにはやっぱり無理がある。結局、母娘にとっての希望はないまま。これが映画として成立しているのは、管理人役のウィレム・デヴォーの存在が柱となってかろうじて破綻を回避しているからに過ぎない。ヘイリーもムーニーも周囲の人たちに迷惑を掛け、犯罪といえるようなこともしてるけど、ついぞ悪びれることがない。「ごめんなさい」というセリフは一度も出てこなかった。最後まで感情移入できなかった2人は名演技をしたといえるのかもしれないけど。

♡ 手厳しいんやねぇ。けど好き嫌いはさておき、2人の演技はなかなかよかったのとちがう? 子どもたちにいたっては、演技なのか適当に遊ばせてるのかわからないくらいの自然さで・・・といって、あの言葉遣いが自然のものとしたら一回ぶちのめさなあかんけど(笑) アイスクリームを交互になめる様子とか、火事騒ぎのときのムーニーの引きつった表情とか、たまらんものがあった。ウィレム・デフォーについては、アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞の助演男優賞にノミネートされてる。彼の存在がこの作品世界の破綻を食い止めてるというのはその通りやと思う。

♤ ディズニー・ワールドの近所という特殊性からなのか、原色を使った鮮やかな建物など色使いに特徴がある。また、短いカットを切り替えて見せていく撮影も面白いと思ったが、まあそれだけ。『フロリダ・プロジェクト』というタイトルがいまひとつしっくりこなかったけど、調べてみるとプロジェクトには「公共住宅」という意味があった。自宅を取得できない低所得層の人たちが賃貸住宅として住み着いているモーテルが「公共」の住宅ということで納得。

♡ あの周辺に実際に存在する建物を使ってるらしい。ヘイリーは最悪やったけど、住人のなかにはまっとうに生きてる人もいる。でも彼らがそこから這い上がることはたぶんない。母子は引き離され、マジカルな色彩に満ちたムーニーの子ども時代はまもなく終わる。最後の一瞬の現実逃避は、おそらくはムーニーの想像の産物なのやろなぁ。

 

予告編

スタッフ

監督 ショーン・ベイカー
脚本 ショーン・ベイカー
クリス・バーゴッチ

 

キャスト

ウィレム・デフォー ボビー
ブルックリン・キンバリー・プリンス ムーニー
ブリア・ビネイト ヘイリー
バレリア・コット ジャンシー
クリストファー・リベラ スクーティ

 

レクタングル336

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