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午後8時の訪問者(La Fille Inconnue)

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「午後8時の訪問者」のポスター

キット♤ 3.0 ★★★  
アイラ♡ 3.5 ★★★☆

『ロゼッタ』『ある子供』でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞し、7作品連続でカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出されているベルギーのジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟の監督作品。ある夜、医師のジェニーが勤務する診療所のドアベルが鳴らされる。診療時間は過ぎており、ジェニーは研修医にそれを無視するよう告げる。翌日、身元不明の少女の遺体が近くで発見され、診療所の監視カメラには彼女が助けを求めてベルを鳴らす姿が映っていた。少女の身に何が起きていたのか。医師としての良心の呵責からジェニーはある行動に出る・・・。

 

言いたい放題

キット♤ サスペンス物という触れ込みでもあったので、そのつもりで観たら、どちらかというとヒューマンドラマのような作品やったな。主役は若い女医ジェニー。引退間近のベテラン医師の小さな診療所の代診医師として働いているが、ある夜、研修医の青年とのちょっとした諍いで、診察時間終了後にドアベルを押した訪問者に応対しなかった。翌日、その訪問者の女性が死体で発見されたことで、単独で真相の探求を始めるという物語。

アイラ♡ BGMも一切ない中で物語は淡々と進んでいって、ジェニーもほとんど感情を露わにするタイプではない。でも、もしドアベルに応じていれば彼女を助けられたかもしれないという自責の念にかられての行動だということはわかる。防犯カメラに映っていたのが若い黒人の少女で、不法移民かもしれないというところも大きな理由だったんじゃないかと想像するけど。

♤ 冒頭のいくつかのカットで、ジェニーが競争率の高い病院での採用が決まって転職しようとしていること、診療所で主治医として患者に信頼されていること、年寄りの患者にも優しく接していること、フランス語をろくに話せない不法就労者にも分け隔てなく接し、診療の労を惜しまないことなど、思いやりの深い優秀な医師であることがわかる。キツく叱ってしまった研修医にも、必要以上にフォローアップしているし。特に説明的なセリフもなしに、彼女が誠実な人物であることを端的に伝える手法は手際が良い。

♡ それまでまじめにきちんと仕事をこなしてきたであろう彼女が、研修生とのちょっとした諍いに発する判断ミスで人一人を死なせてしまったかもしれないという事態に直面する。そこから警察に告げず単独で事実を探しはじめるわけやけど、結果としてそれは医師である自分の存在価値を問い直す過程となっていくのよね。大仰な演出は一切なくて、ジェニーもいつも同じコートを着た、ひっつめ頭の地味な女性。ごく普通の女医の日々を追ったドキュメンタリーみたいな作りやけど、静かに人の心理を掘り下げていくさまはうまいなぁと思ったわ。

♤ 主演のアデル・エネルはフランスの若手俳優の有望株ということやけど、出演作を観るのはこれが初めて。ちょっともっさりした感じがするが、誠実で毅然とルールを守り通す役をよく演じていると思う。ただこの女医さん、けっこう危なそうなところまで聞き込みに行ったり、医者とはいえちょっと変な患者と診察室で二人きりになったり、見ていてハラハラしてしまうんやけど、本人はぜんぜん気にしている様子がない。ひょんなことから患者である一人の少年が事件に関して何か知っているらしいことに感づくが、医者としての守秘義務を守り通して警察に通報しないのも危なっかしいし、大丈夫かいなと思ってしまう。

♡ でも地に足の着いた人なんやと思うよ。もうひとつ見逃せないのは、なぜ研修生にキツくあたってしまったかという心理。研修生との上下関係をはっきりさせたかったからという自省的なセリフがあるけど、研修医に対するイラつきというのか、複雑な一瞬の心理のあやをうまく物語のカギにしているなと思ったわ。高待遇の勤務医ポストも約束されていたのに、結局彼女は事件を契機に安定した将来を求める道を選ばなかった。「保険診療の患者ばかり」という通り、近隣は貧困地域で不法移民も多い地域だというのに、彼女がそこで生きていくことを選んだのは、贖罪というよりは医師としての本分をそこに改めて見出したからやと思う。

♤ ポピュリズムの台頭やらで嫌な世の中になってきたけど、良心を信じて誠実であることは大事やなと思わされる映画。この映画を良いと思うかどうかは主人公の女医に感情移入できるかどうかに掛かっていると思う。こんなお医者さんがおったらええなと思う反面、現実にはここまでやる人はおらんやろうとも思う。なぜこの女医がこういう「良い人」になれたのかという背景が描かれていれば、もう少しすんなりと入っていけたかもしれない。

♡ せやね。彼女の人間性の背後をもう少し知りたかったかも。サスペンスを期待するほどのストーリーの起伏はないけど、静かに沁み入ってくる作品やったわ。足の悪い老女の手を取って一緒に階段を降りていくラストシーンがすべてを語っているように思った。

 

予告編

スタッフ

監督 ジャン=ピエール・ダルデンヌ
リュック・ダルデンヌ
脚本 ジャン=ピエール・ダルデンヌ
リュック・ダルデンヌ

 

キャスト

アデル・エネル ジェニー
オリビエ・ボノー ジュリアン
ジェレミー・レニエ ブライアンの父親
オリビエ・グルメ ランベルトの息子
ファブリツィオ・ロンジョーネ ドクター リーガ

 

レクタングル336

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