レビュー

ファースト・マン(First Man)

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First Man

キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督とライアン・ゴズリングのコンビで、人類で初めて月面に足跡を残した宇宙飛行士ニール・アームストロングを描く。原作はジェームズ・R・ハンセンによるたアームストロングの伝記『ファーストマン』。アームストロングの視点を通して、人類初の月面着陸に挑む乗員やNASA職員たちの奮闘と、月面着陸計画の意義に葛藤しつつプロジェクトに挑む自らの姿を描いていく。妻ジャネット役に『蜘蛛の巣を払う女』やTVドラマシリーズ『ザ・クラウン』などのクレア・フォイ。ほかいもジェイソン・クラーク、カイル・チャンドラーなどが共演。第91回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞。

 

言いたい放題

キット♤ ロケット打ち上げの場面を重ねたポスターをみると宇宙映画のようなイメージを持ってしまうけど、本作はアポロ11号で人類初めて月に降り立ったニール・アームストロングの伝記映画。

アイラ♡ 公開当初からなぜかそれほど高評価ではなくて、各種レビューでも寝落ちしただの淡々として退屈だっただの、ずいぶんな酷評を目にすることもあったので、たいしたことないのかしらと思いながら観たら、どうしてどうして。たしかに派手ではないけど、アームストロング船長の内面をじっくり描いた良作。退屈する間なんてなかったわよね。

♤ オープニングシーンでぐっと引きつける。アームストロングがテストパイロットで高高度を飛行しているシーン。細かな説明はないが、おそらく成層圏を超えて宇宙空間に達したところで何らかの機械トラブルが発生し、高度を落として地上へと戻らなければならないところで逆に上昇してピンチという場面。あわやというところで機転を利かせて無事帰還したが、ひとつ間違えば死んでしまう危険な任務であることをしょっぱなにガツンと見せる。

♡ 乗り物ががたがたと大きく揺れ、はげしいきしみ音が続く。シートに固定されたままの飛行士は、ときに生死を分ける瞬時の判断を強いられる。技術的経験の蓄積もほとんどない時代。技術者も宇宙飛行士も、ともに過酷な開発に臨んでいたということがこの冒頭シーンだけで十分伝わってくる。

♤ その後の展開はうって変わって静かなものになる。アームストロング自身とその家族、宇宙飛行士を目指して訓練を受ける同僚たちの様子を淡々と描いていく。宇宙飛行士を引退した後、アームストロングは政界入りを誘われたが断るなど、自らの圧倒的な知名度を利用しようとしなかった人。ほとんど表に出てこなかったので、知名度のわりにどんな人物だったのかよく知らなかったが、本作で彼の人となりを一通り理解することができる。

♡ 私たち世代には、アポロ計画ってまさに夢のような響きをもっていたけど、その後に作られた『アポロ13号』や、もっと前では『ライトスタッフ』など、宇宙計画が夢物語なんかじゃなく、優れた頭脳と強靭な精神の持ち主でなければ乗船できるものではないこと、多くの犠牲の上に推進されてきたものであることを徐々に学んでもきた。アームストロング自身もあわやの体験をし、後には同僚が事故で命を落としたり、計画の華やかさの後ろにある過酷な現実を自分のものとして知っている。だからこそ、ライアン・ゴズリングの寡黙な演技が際立ってくるのやろね。

♤ 主演のライアン・ゴズリングは『ラ・ラ・ランド』の成功のあと、2年ばかり他の映画に出演せず、ほぼ本作一本に賭けていた様子。娘を病気で失い、同僚が次々と事故で亡くなり、政府や国民からの期待と、計画に反対する世論の板挟みによるプレッシャーの一方で、未知の世界へのファーストマンになりたいという気持もあったはずのアームストロング。感情をあまり表に出さない人物なので、演じるのは難しかったと思うが、ゴズリングなりに成り切っていたのではないだろうか。

♡ 終始アップになるのがライアン・ゴズリングの目元。これによって、常に頭脳を働かせている人物像が描かれているように感じたわ。月面着陸シーンもほぼ彼の視線から作られているので、歓喜にわくわけでもなく、ただ淡々と月面にあの靴底の跡をつける。帰還後の隔離中も、面会に訪れた妻とは静かに見つめ合って微笑みを交わすだけ。こうした場面にライアン・ゴズリングはとても向いてるわよね。

♤ 気になったのが、月面に降り立つシーンで星条旗を立てる場面がなかったこと。アメリカ人にとって、これこそ最大のハイライトやろに・・・と思っていたら、エンドロールで製作総指揮の一人にスティーブン・スピルバーグの名前を発見。星条旗を出すことによって、意図しない国威高揚になることを避けたのかもしれないし、そういう機会を利用しがちな現大統領を慮ってのことかなと勝手に解釈した。

♡ いまなぜ「アポロ11号」だったのかはわからないけど、これは娯楽超大作をめざすものではなく、かつての宇宙開発競争の意味を問うもの。冷戦下、巨額の税金投入と人的犠牲をいとわず続けられた競争のなかで、公私ともさまざまな苦悩を抱えてファーストマンとなっていくニール・アームストロング。その内面をしっかりと描きこんでいかなかったら、アポロ計画って何だったのか、宇宙開発競争にどんな意義があったのかという振り返りにはならない。その点でも、これはなかなかバランスの取れた作品やと思う。

 

予告編

スタッフ

監督 デイミアン・チャゼル
原作 ジェームズ・R・ハンセン
脚本 ジョシュ・シンガー

キャスト

ライアン・ゴズリング ニール・アームストロング
クレア・フォイ ジャネット・アームストロング
ジェイソン・クラーク エド・ホワイト
カイル・チャンドラー ディーク・スレイトン
コリー・ストール バズ・オルドリン
キアラン・ハインズ ボブ・ギルルース
パトリック・フュジット エリオット・シー
ルーカス・ハース マイク・コリンズ
イーサン・エンブリー ピート・コンラッド
シェー・ウィガム ガス・グリソム
パブロ・シュレイ バージム・ラベル
クリストファー・アボット デビッド・スコット
スカイラー・バイブル リチャード・F・ゴードン・Jr.
コリー・マイケル・スミス ロジャー・チャフィー
オリビア・ハミルトン パット・ホワイト
クリス・スワンバーグ マリリン・シー

レクタングル336

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