レビュー

ゴールデン・リバー(The Sisters Brothers)

投稿日:2019年7月10日 更新日:

おすすめ度

The Sisters Brothers

キット ♤ 4.5 ★★★★☆
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

『君と歩く世界』『真夜中のピアニスト』などのフランス人監督ジャック・オーディアールが初めて手がけた英語劇。ジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッドの共演によるゴールドラッシュ時代を舞台とする西部劇で、2018年・第75回ベネチア国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞した。1851年のオレゴン。殺し屋兄弟のイーライとチャーリーは、政府からの内密の依頼を受けて、黄金を探す化学式を発見したという化学者を追う。2人はやがて、政府との連絡役を担う男と化学者と合流し、思いがけず手を組むことになるのだが・・・。

言いたい放題

キット♤ 期待せずに観にいったら思ったより良い作品だったということもあるが、期待しつつ映画館へ行ったら期待以上に良かったというのが本作。まず冒頭の銃撃戦のシーンでぐっと引き込まれる。西部劇の銃撃戦はそれこそ数え切れないくらい撮られてきたけど、暗闇で双方の発砲時の光と音だけのシーンを引きで撮るというのは初めてで、実に新鮮。

アイラ♡ さまざまな点でおよそ西部劇らしからぬ西部劇よね。ゴールドラッシュ、金目当てに集まる荒くれたちと彼らが集まる酒場や娼館・・・と、舞台装置は完全に既視感のある西部劇なのに、古典的な勧善懲悪ものでもなければ銃撃戦がウリってほどでもない。むしろロードムービーの味わいすらあって、なんとも虚を突かれた感じがあったわ。

♤ 『The Sisters Brothers』という奇妙な原題。その意味はやがて判明するけど、これは「シスターズ兄弟」つまりシスターズという名字をもつイーライ(ジョン・C・ライリー)とチャーリー(ホアキン・フェニックス)の殺し屋兄弟の物語。邦題がまったく見当違いのタイトルで、しかもポスターなどの広告がジェイク・ギレンホールとリズ・アーメッドの2人を加えて4人セットにするという迷走のおかげで、兄弟へのフォーカスが薄れてしまっているのが残念。たぶん、知名度の高いギレンホールを前面に出したかったのだろうが、この映画での彼の役割は脇役に過ぎない。

♡ オリジナル版のポスターは兄弟2人だけやもんね。もちろんこの4人の絡みが始まる部分からぐっと面白さを増すのやけど、物語の主軸はあくまでこの兄弟。このタイトルや劇場予告を見た人は、4人で金鉱を探し当てた末に欲に目がくらんでドンパチ・・・みたいな展開かと思ってしまうよね。

♤ この殺し屋兄弟2人の性格の設定と会話が絶妙やな。若い方のチャーリーがリーダーのように振る舞い、おっさんのイーライが常に割りを食っているので、最初のうちはどんな関係なのかと思わせる。血の繋がりはないのかなと思うころ、2人の過去や兄のイーライがチャーリーに一目置くようになったいきさつが語られるなど、話の展開も緻密に計算されている。

♡ 抜け目がなくてアグレッシブな弟、本当はこんな稼業から端役足を洗いたいと思っている兄。正反対の性格ゆえにトラブルも起きる。でもどこまでいっても強い兄弟愛に結ばれてるから、観るほうも次第に彼らへの感情移入を深めていく。

♤ 2人の仕草や会話は決してコミカルではないのに、微妙に理由なく笑いを誘うところがあって、とにかく最高に良いコンビぶり。チャーリーは大酒飲みでぐでんぐでんに酔っ払うくせにピンチがくればシャキッとしてみせるし、チャーリーにやられっぱなしのイーライは実は銃撃戦ではかなり強かったり、次々と意外な一面を見せる演出もにくい。

♡ 醜男のイーライが歯のお手入れに余念がなかったり、後に合流するモリス(ギレンホール)と、川辺で歯磨きしながら見交わす視線とか、どうってことないシーンがやたら面白かったりするのよね。歯ブラシ、赤いショール、クモ、イーライの馬、チャーリーの散髪、高級ホテルの水洗トイレなど、多くを語らない代わり、小道具で主人公たちの性格を示していく手法がとても効果的でうまいよね。

♤ そういう意味では、冷徹な殺し屋の2人がモリスと化学者のハーマン(アーメッド)とひょんな事で交流するようになって、少し人間が変わっていくところが見どころではあったのだが、チャーリーの予期せぬ行動で事態が急変してしまうのも良い意味で観客の予想を裏切る。

♡ そもそもはお互いに相手が役に立つと踏んで手を組んだようなものなので、どのみち円満解決はないやろと思ってたけど、あれは思いがけない展開やった。任務とはいえ非情に人を殺してきた2人も、望まぬ形で人を死なせ、チャーリーも痛手を負ってしまうという後悔と絶望が本当に苦々しい。

♤ そうやって、どう転んでもこの兄弟の行く末は暗そうだと思わせておいて、意外なラストへ持ってくるところでまたやられる。このフランス人映画監督は王道の西部劇を踏襲しながら、程よいひねりを加えて見応えのある映画にしている。もちろん、主演の2人も文句なく良い。

♡ ダメ兄弟には違いないのやけど、すでに彼らには十分感情移入させられているので、ああいうラストがす~っと胸に落ちてくる。「何かを無くしたみたいだね。まぁゆっくり聴くとしよう」という言葉で観る側までも救われる・・・。あと端役ではあるのやけど、女性がほとんど出てこない中でいい味を出しているのが、とある街を牛耳っている女ボスのメイフィールド。登場人物の中では一番の威圧感を放っていて、ひたすらものすごい。それと思いがけない形で出てくるのが、『ブレードランナー』のレプリカントだったルトガー・ハウアー。知らなければ絶対に気が付きません(笑)

 

予告編

スタッフ

監督 ジャック・オーディアール
原作 パトリック・デウィット
脚本 ジャック・オーディアール
トーマス・ビデガン

キャスト

ジョン・C・ライリー イーライ・シスターズ
ホアキン・フェニックス チャーリー・シスターズ
ジェイク・ギレンホール ジョン・モリス
リズ・アーメッド ハーマン・カーミット・ウォーム
レベッカ・ルート メイフィールド
アリソン・トルマン 酒場の女
ルトガー・ハウアー 提督
キャロル・ケイン ミセス・シスターズ

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