レビュー

はじまりへの旅(Captain Fantastic)

投稿日:2017年4月6日 更新日:

おすすめ度

「はじまりへの旅」のポスター

キット♤ 2.5 ★★☆
アイラ♡ 3.0 ★★★

第69回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」の監督賞をはじめ、各国の映画祭で賞を獲得したロードムービー。確固たる信念と独自の教育方針のもと、社会との交わりを絶ちアメリカ北西部の森の奥深くに暮らす父と、その6人の子どもたち。亡くなった母親の葬儀に参列し、母の遺言を果たすため、ニューメキシコまで2400キロの旅に出る。アスリート並みの体力と名門校に合格するだけの学力や外国語力を持ちながら、世間を全く知らない子どもたちは、実社会とのギャップに戸惑い、自分らしい生き方を模索する。そして父親もまた・・・。『アメリカン・サイコ』などに出演し、『あるふたりの情事、28の部屋』で監督としても評価されたマット・ロス監督。『ロード・オブ・ザ・リング』『イースタン・プロミス』のヴィゴ・モーテンセン主演。

 

 

言いたい放題

アイラ♡ うわ~い、大好きなロードムービーヽ(^o^)丿 って手放しで喜びたいとこなのやけど、どう評していいのかに苦しんでしまう作品やね。原題通り、“Captain Fantastic”であるところのお父ちゃんと、たくましく育った素直で可愛い子どもたちの巻き起こす騒動・・・というところで、揺るぎない家族の絆が示されるファンタジックコメディというにはちょっと無理が大きくない? カンヌはじめ各映画祭で注目された作品やけど、普通だと思っていることをひっくり返してみるという発想はええとして、どうしても否定的な印象が残ってしまう。

キット♤ 始まって10分くらいで、子どもたちがハンティング、サバイバル、文学、数学、物理学などにきわめて長けていることが分かってくる。さらに全員が並外れた身体能力を持ち、ドイツ語と中国語で会話できて何人かはエスペラントもできることも知らされる。長男はエール、スタンフォード、MIT、ブラウンなどの名門校を受験して全て合格するほどの学力の持ち主。これをすべて仕込んだのは父親のベンで、格闘技のコーチングから物理学の“ひも理論”にまで通じているスーパーマンみたいな人なんや。

♡ アメリカには、日本みたいな義務教育はないのかな。

♤ 親が子供を自宅で教育する“ホームスクーリング”が合法的に認められているらしいね。理由の多くは宗教的なものらしいけど、ベンは既成宗教には反発していて、子供たちにはトロツキーや毛沢東の思想を学ぶことを奨励している風。小さい女の子はポルポトをアイドルのように奉ってる始末や。まぁ、独立独歩の精神を尊重するアメリカ人には受けそうなテーマなのかも。

♡ 軍隊式っぽい部分もあるけど、全員がとても素直で、親を尊敬して言うことをちゃんときく。TVやゲームなんか当然ないので、夜は焚き火の周囲に集まって読書をしたり、全員で音楽を奏でて楽しみ、星を見上げながら眠りにつく・・・。ある種の理想郷ではあるのやろけど、なんだか70年代のコミューンのようでもあり、途中から、この子たちをこのまま育てたらどうなってしまうの?みたいな違和感が湧いてくるのよね。母親でさえ現状に抗していたようで、よけい子どもたちに同情的になってしまう。

♤ 物語は、双極性障害で入院していたベンの妻、つまり子どもたちの母親が自殺してしまうところから大きく展開。彼女は仏教徒で、土葬は絶対にダメ。必ず火葬にして遺灰をトイレに流してほしいこと、葬儀は歌を歌って賑やかに行ってほしいことを遺言にしてた。でも彼女の父は、教会でキリスト教式の葬儀の段取りを進め、もしベンが参列したら逮捕すると警告。ベンは妻の遺志を叶えるべく、子どもたちとともに遠くニューメキシコへと旅立つという流れ。

♡ 山ごもりの生活から初めて“下界”に降りた子どもたちがその過程で体験するさまざまな体験がコメディタッチで軽妙に描かれていて、それ自体はなかなか面白いんやけどね。

♤ 父親役のヴィゴ・モーテンセンは、山中での絶対的なキャプテンと“下界”では全てが思い通りになるとは限らないところでの葛藤を演じていてかなり良い。子どもたちも6人もいるので、どれがどれやら識別するのが大変やったけど、皆それぞれが子どもらしくて生き生きしててよかった。

♡ 子どもたちは全員すごくよく演じてたね。父親があらゆる分野に知識と経験を持っているという設定は非現実的やけど、映画やからさておくとして、父親としてのベンの愛情も強烈に感じさせる。

♤ そうなんやけど、家族以外の人たちへの思いやりという点では圧倒的に欠けてるやろ。スーパーマーケットで行ったことは、明らかに盗み。「強欲な資本家のもの奪っても構わない」という教育だとしても、店の従業員など普通の労働者が困るということには配慮していない。妹の家にやっかいになったときに、甥たちの前で自分が英才教育した8歳の娘の知識が上回っていることを見せつけたところは気分が悪なったな。

♡ 子どもたちが従順すぎるのも少し違和感があって、父親という指導者を奉るひとつのカルト集団みたいに見えなくもないのよね。一生ずっとここで半自給自足を続けるつもりだったのかと想像すると、結局彼は子どもたちの将来もちゃんと見据えていない、ただのエゴイストということになってしまうし。

♤ 結局、自分自身が完璧な人間でないことを悟ったベンが、多少の修正を加えて今までの生活を継続するということになるわけやけど、それまでの10年間家族以外との社会的接触がない環境で育てられた子供たちはこれからどんな苦労をすることやら・・・。

♡ 彼のユートピア幻想は脆くも崩れ去り・・・というところで、やっぱりこれはファンタジー映画ではないのよね。でも、ベンが子どもたちに示してきたことを何もかも否定的に見るつもりはなくて、たとえば「Interestingと言ってはいけない!」とか、怪我への対処など自己責任も教えている。原題のとおり、ファンタジー頭の困ったお父ちゃんと、それに付き合わされた良い子たちの物語ね(汗)

♤ 映画としてはそこそこ良くできているが、好きか嫌いかとなるとあんまり好きじゃないな。

♡ けど、なんだかんだいいつつ観せてしまうところと、ロードムービーらしさにあふれるカメラの良さ、それに役者たちの演技にポイントを乗っけておくとします。母親への弔いとして、家族でGuns N’ Rosesの“Sweet Child of Mine”を歌う場面はさわやかでよかったです~♪

 

予告編

スタッフ

監督 マット・ロス
脚本 マット・ロス

 

キャスト

ビゴ・モーテンセン ベン
フランク・ランジェラ ジャック
ジョージ・マッケイ ボウドヴァン
サマンサ・アイラー キーラー
アナリース・バッソ ヴェスパー
ニコラス・ハミルトン レリアン
シュリー・クルックス サージ
チャーリー・ショット ウェルナイ

レクタングル336

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