おすすめ度
キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆
『ザ・ギフト』に続くジョエル・エドガートンの監督第2作。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』で脚光を浴びた若手実力派俳優ルーカス・ヘッジズが主役の青年を、ラッセル・クロウとニコール・キッドマンが彼の両親を演じる。原作は2016年に発表され全米で反響を呼んだ実話。アメリカの田舎町で牧師の息子として育った大学生のジャレッドは、あることを契機に自分が同性愛者であることに気づく。息子の告白に衝撃を受けた両親は、彼を治療のための施設に入れるが、そこで行われていたのは人格を否定するような驚愕の矯正プログラムだった。
言いたい放題
キット♤ 同性愛の息子とその両親の関係を描いた作品という予備知識だけで劇場へ。確かに同性愛の息子を抱えた家族の物語ではあるけど、それを矯正しようとする施設とそれを是とするアメリカの暗部を描いた映画だった。
アイラ♡ 同性愛を矯正するという考え方がアメリカにあるということには驚くしかなかったのやけど、それがキリスト教的価値観から来ていると知れば納得できなくもない・・・。アメリカのキリスト教原理主義というのか、進化論さえ認めないような立場からすれば、同性愛は明らかに聖書によって否定される行為。でも、それを根性論みたいなところで矯正しようとする場所があるなんてね。
♤ 世界には同性婚を認めている国とそうでない国があって、アメリカやヨーロッパの多くの国は前者で日本は後者。これをもって日本は遅れているとする議論もあるけど、どうなんやろな。 日本で同性婚に強硬に反対する人は、憲法の結婚の定義に合わないとか理屈をこねるけど、自分が日本の伝統・慣習だと思い込んでいるものと違ったことを「公式に」認めたくないだけのように見える。要は「表に出んとこで何をやってもええけど、『結婚』という形式を求めたらあかんで」というニュアンスがあるように思える。これはこれで問題ではあるけど、LGBTQに反対する大した根拠がないところからくる最低限の寛容はあるように思える。
♡ 同性愛をどう受け止めるか、明確な規範や根拠を持たないわれわれに対して、聖書という揺るがぬ価値観をよりどころとする人々にとっては、大金を払ってまで人格破壊に近い矯正を受けさせるに値する宗教的逸脱なんやろね。科学的根拠など一切ないだけに、その対象になってしまった人々は悲惨。自分を偽って社会に戻るしかないわけで・・・。
♤ この映画は宗教の不気味な一面と、それを感じずに信じている人たち、それを逆手に取って金儲けに勤しんでいる人たちを見せる。アメリカの一部の州では同性婚が既に認められているのに対して、まだ34の州では映画で描かれた矯正施設が残っているというから変な国やなと思うな、アメリカは。
♡ もうひとつ言うと、アメリカで進化論を否定する人々はトランプの支持者層と重なるという現実があるよね。保守化するアメリカへの警鐘という見方もできるかもしれない。さらに本作では、父親がコミュニティから信頼された牧師であるということが不幸に輪をかける。ラッセル・クロウでなくてもいいような役かなとは思うけど、よりによって自分の息子が・・・という苦悩は重いわよね。
♤ 配役では、やはり主演のルーカス・ヘッジズに注目が集まるけど、監督で矯正施設のセラピスト役としても出演しているジョエル・エドガートンが意外とよかった。施設に入れられた少年、少女を前にぶった「1ドル紙幣」の話は妙に説得力があったし。ニコール・キッドマンの母親役は最初はどうかなと思ったけど、観終わってみるとよかったな。レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーがちょい役で出ていて、その他の施設の少年たちもみな個性的でよかったと思う。
♡ ニコール・キッドマンが演じるのは、ヘアスタイルから服装から、いかにもアメリカの田舎の中流家庭の妻。つつましく夫に従って生きてきたけど、最後には母親として腹をくくるところが見せ場かな。こうした地味目の作品への出演で、演技派としての評価を重ねつつあるという印象。注目株のルーカス・ヘッジズの演技は、淡々としているがゆえに重いリアリティを感じた。どこかに書かれてたけど、ルーカス・ヘッジズ以外の主な出演者は、監督含めオーストラリアもしくはニュージーランド出身なのよね。豪州人脈ってとこかな?
予告編
スタッフ
監督 | ジョエル・エドガートン |
原作 | ガラルド・コンリー |
脚本 | ジョエル・エドガートン |
キャスト
ルーカス・ヘッジズ | ジャレッド・イーモンズ |
ニコール・キッドマン | ナンシー・イーモンズ |
ジョエル・エドガートン | ヴィクター・サイクス |
ラッセル・クロウ | マーシャル・イーモンズ |
フリー | ブランドン |
ジョー・アルウィン | ヘンリー |
グザビエ・ドラン | ジョン |
トロイ・シバン | ゲイリー |
デビッド・ジョセフ・クレイグ | マイケル |
チェリー・ジョーンズ | マルドゥーン医師 |
セオドア・ペレリン | ゼイヴィア |