レビュー

ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男(Darkest Hour)

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おすすめ度

Darkest Hour

キット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

チャーチルの首相就任からダンケルクの戦いまでの27日間を描き、主演のゲイリー・オールドマンがアカデミー主演男優賞を受賞した歴史ドラマ。監督は『つぐない』のジョー・ライト。オールドマンの特殊メイクを担当した、日本人メイクアップアーティストの辻一弘がメイクアップ&ヘアスタイリング賞でオスカーを獲得した。第2次世界大戦初期、ナチスドイツがフランスを陥落寸前にまで追い詰め、連合軍は北フランスの港町ダンケルクの浜辺で窮地に陥っていた。ドイツの侵攻が迫るなか、就任したばかりの英国首相ウィンストン・チャーチルは、ヒトラーとの和平交渉を進めるか徹底抗戦かの選択を迫られていた。

 

言いたい放題

キット♤ ヒトラーがオランダ、ベルギー、そしてフランスへ侵攻していた当時、イギリスの首相に就任したウインストン・チャーチルの決断をめぐる27日間の物語。見応えのあるドラマやった。

アイラ♡ 原題は『Darkest Hour』。「一番苦しい時期」という慣用語で、「この局面を乗り越えれば夜明けが来る」という英国民の気概が伝わってくる。「ヒトラーから世界を救った男」という邦題のサブタイトルはあまりいただけないけど、チャーチルを知る日本人も少なくなったいまとなっては致し方ないのかもね。

♤ 1965年に90歳で亡くなっているので、現役時代の彼の姿はほとんど知らないけど、今回メイクアップ&ヘアスタイリング賞で辻一弘がオスカーを獲得して話題になった特殊メイクによって、ゲイリー・オールドマンはかなり実物の風貌に近づいてる。当時のチャーチルは66歳、演じるオールドマンは59歳で髪もふさふさ、肌ツヤもよくほっそりした顔つきなのに、髪が後退し、がっちりした顎の自然なメイクは驚くほどの出来。ゲイリー・オールドマンが指名したというだけある。しぐさや話し方も、おそらく徹底的に研究して似せてるんやろな。

♡ チャーチルのキャラクターを引き出したゲイリー・オールドマンの演技力が最高に光る。舞台は議会場や首相官邸、王宮など、比較的限られてるんやけど、どこでもほとんどチャーチルの独壇場やしね。目を引いたのが光線の使い方で、議会場では彼のところにスポットライトが当たるようにしていて、まるで舞台劇のような効果を上げている。窓のない戦略室は人工光のぎらつく感じに、逆に王宮では鈍くやわらか光が窓から差し込むさまを表現して効果を上げてた。

♤ 舞台設定のうまさのおかげで、狭苦しい部屋のひな壇に議員が並ぶイギリス議会のシーンも臨場感があるし、ラストにチャーチルが立ち去っている画面も決まってた。物語はチャーチル密着して進んでいく。ナチスに対して断固抗戦を主張するチャーチルに対して、ハリファックスが講和を画策したのは史実どおりらしい。チャーチルが実際に庶民の声を聞いて決断したのかどうかは分からないけど、国王ジョージ6世に花を持たせつつ、チャーチルが閣外大臣と労働党の議員を掌握して保守党の講和派を退けるところの盛り上げ方がうまい。

♡ それこそトイレにまでチャーチルに密着しときながら、新米秘書エリザベスの視線を絡ませた展開を交えてるのも面白いとこよね。美貌と生真面目さがバランスよく同居するリリー・ジェームズの存在があって、映画の重苦しいテーマがずいぶんやわらいでる気がしたわ。

♤ リリー・ジェームスは『ダウントン・アビー』のローズ役でチャンスを掴んで、その後順調に良い役に当たっているので今後が楽しみやな。本作では、チャーチルの首相着任直後に起こったダンケルクの戦いと、ナチスドイツに包囲された40万人の陸軍将兵を脱出させるダイナモ作戦が重要な要素になっている。細かいところまで描かれていないのは、それだけこの史実がイギリス人には常識すぎるからなんやろな。我々としては『ダンケルク』と合わせて観ることで理解が深まる。

♡ どこまで事実なのかわからないけど、チャーチルが慣れない地下鉄に乗って市民と直接話をする下りは、本作でもいちばん印象的な場面。国民意識の盛り上がりを敏感に察し、この経験をすぐさまスピーチに活かし、戦意発揚に結びつけてしまうチャーチルのしたたかさ。チャーチル自身は毀誉褒貶の激しい人で、戦後は政治の表舞台から去ることになるわけやけど、英国首相に就任してからダンケルクの戦いに至る27日間に絞り込むことで、彼の強烈な個性と指導力が際立った。勝ったからよかったようなものなのでしょうけど・・・。

♤ 改めて思ったのは、イギリスが階層社会であること。チャーチルは下院の議員選挙で3度も落選の憂き目に会っていて、映画の中でも政敵のハリファックス子爵を「無能な貴族の三男」と罵っているし、奥さんも破産寸前と騒いでいたので決して豊かではなかったらしい。しかしチャーチル自身も出自は良家のお金持ちで、バスに乗ったことがないとか地下鉄の乗り方が分からないシーンなど、一般庶民とはかけ離れた階級の人だったことが分かる。さらに戦争の作戦室は女人禁制で、女性の仕事はタイピストくらい。70年前とはいえ、いろんな意味で現在からは想像しにくい社会ったんやなぁ。

 

予告編

スタッフ

監督 ジョー・ライト
脚本 アンソニー・マッカーテン

キャスト

ゲイリー・オールドマン ウィンストン・チャーチル
クリスティン・スコット・トーマス クレメンティーン・チャーチル
リリー・ジェームズ エリザベス・レイトン
スティーブン・ディレイン ハリファックス子爵
ロナルド・ピックアップ ネビル・チェンバレン
ベン・メンデルソーン 国王ジョージ6世
ニコラス・ジョーンズ サー・ジョージ・サイモン
サミュエル・ウェスト サー・アンソニー・エデン

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