レビュー

ラッキー(Lucky)

投稿日:2018年3月30日 更新日:

おすすめ度

Lucky

キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

2017年9月に91歳で亡くなった『パリ、テキサス』などの個性派俳優ハリー・ディーン・スタントンの最後の主演作。『ファインダー ハンバーガー帝国のヒミツ』『ジャッキー』などの名脇役ジョン・キャロル・リンチの初監督作品。スタントンに当て書きされたという脚本は、片田舎に住む気難しい現実主義者の老人ラッキーが自らの人生の終末と向き合い、さまざまに思いを巡らせていくさまを、彼をとりまく人々との交流や日々の小さな出来事を通して描いていく。長年にわたるスタントンの盟友デビッド・リンチ監督が主人公の友人役で登場する。

 

言いたい放題

アイラ♡ 何ともしみじみとした味わいのある作品やったなぁ。歳のせいかしら、心底共感できる言葉にあふれていて、これから何度でも観返したいと思った。

キット♤ ハリー・ディーン・スタントンは1950年代からコンスタントに活動していて、出演作は100本を越えるそうやけど、そのほとんどが脇役、というか主演らしいのは『パリ、テキサス』だけやないかな。最初に観たのは1970年代の西部劇、その後西部劇が作られなくなって日本公開作ではとんと見かけんようになったけど、『エイリアン』の宇宙船乗組員や『グリーンマイル』の囚人役など、あれっというところに出ていた。デビッド・リンチやヴィム・ヴェンダース、ジョン・ミリアス、スチュアート・ローゼンバーグ、 ディック・リチャーズ、フランシス・フォード・コッポラ、リドリー・スコットなどそうそうたる名監督が彼を起用してる。しかも本作では、デビッド・リンチがラッキーの友人役で出演までしている。

♡ 老いたりといえどもスタントンの演技は実に確かで、いつのまにかラッキーとスタントン本人が入り混じってくるような感じを受けた。脚本はスタントンに当て書き起こされたということで、死を意識せざるを得ない身となったラッキーが、いかにそれと対峙していくかというテーマでもあるので、遺作となることを意識して作られたといってもおかしくない。

♤ ほんま、与えられた脚本通りに演技しているというより、ラッキーとスタントンが同化しているというか、自分自身を演じているような感じ。本人は完成を見ていないそうやけど、亡くなる前にクランクアップできてよかった。内容はといえば、90歳を迎えたラッキーの、小さな田舎町での数日間の暮らしを淡々と綴るだけ。朝目覚めるとラジオのスイッチをひねり、冷蔵庫の牛乳を飲み、ヨガと称する変な体操をして・・・と、決まった行動を毎日繰り返しているのをセリフなしで分からせる演出が上手い。90歳の体は肉が落ちて皮膚がたるんで老人そのものやけど、シャツを着て、ブーツとジーンズを履くとそれなりに決まるところはさすがやな。

♡ あとは毎日同じダイナーと居酒屋に通うことの繰り返し。店で出会う人々もまた同じ。ラッキーは、まぁ偏屈な爺さんではあるけれど、遺言をビジネスにする弁護士にけんかを売ったり、街歩きの途中で必ず悪態をつく場所があったりする。何か筋が通っているようなその偏屈ぶりがまた独特でいい。

♤ 毎日通うダイナーではクロスワードパズルを解くのが日課になっていて、そこに出てきた“Reality”という単語が、ラッキーの思想・心情を理解する鍵となる。実在する「モノ」だけが信じられるもので、それ以外の宗教や精神的なものを重視しない。

♡ ところが思いがけず目眩に倒れたことから、90歳としては超健康体ながら、忍び寄る死に対する怖れをいだきはじめる。このあたりから、彼の人生観や死生観がいろいろな形をとって語られていくのよね。昔は同性愛者を嫌悪してたことを反省してみたりもする。何より、ダイナーに居合わせた第二次大戦従軍経験者が語る日本人少女の話とか、友人の飼っていたリクガメが逃げてしまったエピソードとか、砂漠に囲まれた田舎町という舞台と、そこで語られる仏教的な価値観のギャップが面白かった。

♤ ラスト近く、酒場に集まる地元の友人たちとのシーンでは「死ねば全てがなくなる」と演説し、「そうなったら、どうする?」と聞かれて「微笑むだけさ」と答えて微笑むところが最高やったな。

♡ 思索を重ねた末、ラッキーはすべては無に帰するのだという達観を得る。そう考えると、都会の喧騒ではなく、生命のない茫漠とした砂漠こそが本作の舞台にふさわしかったようにも思えてくるね。リクガメの逃走にしても、友人のハワード(デビッド・リンチ)は、カメは逃げたのではなく、本来行くべきところへ向かおうしていたのを、長らく自分が阻害していたのでは?と思い至る。思考の角度を少し変えれば苦悩は解決するということを示唆してたのかな。

♤ そういえば、映画の中にジョン・ウェインの名前が出てくるけど、廃屋となった建物の看板に“Stagecoach Saloon and Grill”の文字が見えた。ジョン・フォード監督ジョン・ウェイン主演の映画「駅馬車(原題 Stagecoach)」へのオマージュかなと思った。使われる音楽も西部劇風のがいくつかあったし、100本以上に出演していても、最後は初期の西部劇物へ回帰しているのかなとも思った。スタントンは自身のバンドを持っていたくらいなので、映画の中ではハーモニカを演奏し、スペイン語で一曲歌っている。

♡ 真っ青な空と砂漠の光景をバックに、ラッキーの上半身を写した日本版ポスターも、かつての『パリ、テキサス』のポスターを意識したようなデザインやしね。スタントンが出た『レポマン』の名前も出てくるし、全体が彼自身に捧げられた作品なんでしょうね。ジャームッシュの『パターソン』に通じる、多くを語らない無駄のない脚本なんやけど、一方で「孤独と一人とは違う」とか「無意味な雑談より気まずい沈黙のほうがまし」とか、味わい深いセリフがたくさん用意されていて、いちいち覚えていないのがほんとに惜しい。

 

予告編

スタッフ

監督 ジョン・キャロル・リンチ
脚本 ローガン・スパークス

キャスト

ハリー・ディーン・スタントン ラッキー
デビッド・リンチ ハワード
ロン・リビングストン ボビー・ローレンス
バリー・シャバカ・ヘンリー ジョー
エド・ベグリー・Jr. クリスチャン・ニードラー
トム・スケリット フレッド
ジェームズ・ダーレン ポーリー
ベス・グラント アイリーン
ヒューゴ・アームストロング ヴィンセント

レクタングル336

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