レビュー

魂のゆくえ(First Reformed)

投稿日:2019年4月19日 更新日:

おすすめ度

First Reformedキット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

『タクシードライバー』『レイジング・ブル』などの名作の脚本を手がけ、監督としても活躍する名匠ポール・シュレイダーの脚本・監督作。主演はイーサン・ホーク。戦争で息子を失い、罪悪感を背負って生きる小さな教会の牧師トラー。信者のメアリーから環境活動家の夫のことで相談を受け、やがて彼自身が所属する教会組織が環境汚染に関わる企業から多額の支援を受けている事実を知る。自らも、病気で明日をも知れぬ命と向き合い、教会への不信や人間の未来への絶望、そしてメアリーへの思いなどに苦悩するトラーはひとつの決断をする。メアリー役に『マンマ・ミーア!』『レ・ミゼラブル』のアマンダ・セイフライド。

言いたい放題

キット♤ 寒々とした風景の中、遠くに見える小さな教会にカメラが寄っていく冒頭場面。教会の中ではトラー牧師(イーサン・ホーク)が日記を書いていて、独白で「1年間日記を書き続けようという決意」、「日記をデジタルではなく手書きすることの意味」などが語られるが、「1年間書き続けたあと全てを廃棄する」というところで何か尋常ではないと悟らされる。

アイラ♡ 宗教家としてのトラーの独白をずっと聴いていくような構成。決してわかりやすい作品ではないのに、最後まで引き込まれるように観てしまう。

♤ 原題の「First Reformed」はこの小さな教会の名前で、元々はオランダ人の手によって建てられ、間もなく250年の記念式典が予定されていること、トラーはかつて従軍牧師をやっていて、一人息子をイラク戦争に行かせて戦死させたことから妻と別れ、参っていたところを「Abandoned Life」という教団に拾われてFirst Reformedの牧師の職を得たということがわかっていく。こうした展開が説明っぽくなく、ごく自然なのは監督で脚本も手がけているポール・シュレイダーのうまさ。

♡ ある日信者のメアリー(アマンダ・セイフライド)が、夫のことでトラーに助けを求めにやってくる。環境保護活動家である夫のマイケルは地球環境の将来を悲観し、妊娠中のメアリーの出産に反対しているのだという。トラーはマイケルと会い、冷静に話し合おうとするけれども話は平行線をたどるばかり。

♤ トラーとマイケルとの会話に限らず、教会関係者との会話でも聖書からの引用やキリスト教の教義に関わるような台詞が多くて、キリスト教のバックグラウンドを持たない身としては微妙なニュアンスが正直よく分からないのが残念。

♡ それはあるわね。でも、トラーは人間には希望があるとか言いながら、実は自分は1年後に生きているかどうかわからないという絶望感の中にいるというのが実に皮肉。やがてマイケルの倉庫から自作の自爆ベストが見つかり、トラーはそれを預かるのやけど、マイケルは森の奥で自殺してしまう。ここで観る側は、この自爆ベストをめぐっていろいろな推測をすることになる・・・。

♤ マイケルの自殺を機に過去の報道記事を検索するうちに、トラーは教団が環境汚染の元凶みたいな企業から支援を受けている実態を知り、さらに自分の胃がんが進んでいることを自覚することで、マイケルの意思を受け継ぐように過激な考えを持つようになる。

♡ と同時にメアリーに対しても聖職者らしからぬ思いをも深めていく。地球環境に対して、教会も信仰も何もできないという現実にも彼はもがく。そしてすべてのことを総括し抹殺せんがために、彼は教会の式典の日を選んであることを決行しようとするのやけど・・・。

♤ イーサン・ホークは終始抑え気味の演技で、内秘めた迷いを表に出さず淡々と行動しているかと思うと、気遣ってくれる同僚に突き放すような厳しい言葉を投げつけるところもあり、かなりいい感じ。過去に観た映画でイーサン・ホークは良い俳優という印象はあっても、これが代表作と言えるだけの役に巡り合っていなかった感があるが、やっと来たかという感じ。

♡ 『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』では、不器用すぎて人をきちんと愛せないモードの夫役を好演してたけど、主演である本作でいよいよ評価を確立するのでは? シュレイダー監督に関しては、厳格なクリスチャンで、環境問題とキリスト教会の構造問題には深い問題意識を持っているとのことなので、本作にも監督の思いが投影されているのは間違いない。ただ、自爆を思いとどまる代わり、自らの裸体に有刺鉄線を巻き付けるトラーの行為が何を象徴しているのか、読み解いていくのはかなり難しい。私は、メアリーを抱きしめるほどに肉体の痛みがどんどん深まるという形で自ら罰する選択をしたのかと思ったけど、後段はとにかく複雑な比喩や寓意が重層的に詰め込まれているようなので、観る人によっていろんな解釈はありそう。

♤ ポール・シュレイダーはもともとは脚本家で、後に監督もするようになった人。脚本では『タクシー・ドライバー』『ローリング・サンダー』『レイジング・ブル』などの名作に関わってるけど、監督作はいまひとつという印象やった。でも本作では、脚本を書き上げる際にイメージしたというイーサン・ホークを主演に迎えて出色の出来栄え。映像も色味を抑えてベルイマンの映画を連想させる。もう72歳なので、ポール・シュレイダーにとっても本作は代表作となっていく気がする。

♡ 関係ないけど、トラーがひとりで和食の店でお刺身を食べるシーンが不思議に面白かったね。

 

予告編

スタッフ

監督 ポール・シュレイダー
脚本 ポール・シュレイダー

キャスト

イーサン・ホーク トラー牧師
アマンダ・セイフライド メアリー
セドリック・カーン ジェファーズ
ビクトリア・ヒル エスター
フィリップ・エッティンガー マイケル

レクタングル336

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