おすすめ度
キット ♤ 4.5 ★★★★☆
アイラ ♡ 4.5 ★★★★☆
家族の土地を守るため銀行強盗を繰り返す兄弟と、彼らを追う年老いたテキサス・レンジャーを描く。不況にあえぐテキサスの田舎町。タナーとトビーのハワード兄弟は、両親が遺した牧場を差し押さえから守るため、連続銀行強盗に手を染める。襲撃は成功するが、無茶を重ねる兄のせいでやがて2人は追い詰められていく。2人を追うのは定年退職目前の老レンジャー。兄弟には『インフェルノ』のベン・フォスターと『スター・トレック』シリーズのクリス・パイン。テキサス・レンジャーのマーカスに『クレイジー・ハート』ジェフ・ブリッジス。
言いたい放題
キット♤ 基本的に映画は映画館で観ることにしてるけど、これは番外編ということで紹介。というのも、本作は2017年度アカデミー賞作品賞のほか、脚本、編集、助演男優賞の計4部門の候補作なんやけど、目下これと『ラ・ラ・ランド』以外のノミネート作はすべて日本未公開。でも本作はNetflixで字幕付きで観ることができる。
アイラ♡ Netflixに加入してたのがこんな形で報われるなんてね~!
♤ 舞台はテキサス。親から受け継いだ農場を借金の抵当で銀行に取られそうになってる兄弟が連続銀行強盗を働き、テキサス・レンジャーの2人がそれを追うという筋立て。原題の意味がわかりにくいけど、「何が起こっても」という意味の“come hell or high water”をもじったものかと思う。邦題の『最後の追跡』は、ジェフ・ブリッジス演じるテキサス・レンジャーが定年退職目前でこの事件を担当することになった、その「現役最後の」という意味やろね。
♡ 主な登場人物はこの3人と、ジェフ・ブリッジスの相方であるネイティブ・アメリカンとメキシコ人の血を引くレンジャーの計4人。兄弟役の弟のクリス・パインは『スタートレック』のカーク船長のやんちゃで一本気なイメージが強いけど、最近は『ザ・ブリザード』の船長役など、ナイーブさと強さを秘めた役が光ってきたよね。本作もそんな感じで、今後もうまくキャリアを積んでいい俳優になっていってほしいな。
♤ 知性的で慎重な弟と違って、粗野で前後を考えずに行動してしまう兄役のベン・フォスターは『インフェルノ』の悪役・ゾブリストを演じてたけど、これも意外にハマってたな。老レンジャー役のジェフ・ブリッジスは、若い頃はニヤけた演技下手というイメージやったけど、『トゥルー・グリット』の保安官役とか、歳をとってきてがぜん良くなってきた。本作では、相棒がネイティブアメリカンとメキシコ人の混血なのを禁止用語連発でしつこくからかい続けて、それでいて不快な感じにならないところなんか実に上手い。ネイティブアメリカンに関しては、別の場面でコマンチの末裔の人とのちょっとした諍いのシーンがあるけど、人種差別的な出し方でなく「草原の支配者」というポジティブな言葉で締めくくっているのも巧み。
♡ 物語は至ってシンプル。不況でどーしようもない感ばかりがただようテキサスの田舎町が舞台で、登場人物の英語はほとんど聞き取れないほどひどい訛。道路脇の看板も金融業者のものばかりで、街はいかにも活気がない。作品の背骨を貫いているのが、この土地で彼らが何世代にもわたって断ち切れずにいる貧困の連鎖であるという部分は無視できないよね。全体に漂うやりきれなさ感は辛くなるほど重い。深読みする必要はないと思うけど、トランプが大統領になった背景も見て取れる感じ。
♤ とくに良かったのがカメラワークやな。最近はSFや時代物でなくともCGを駆使する傾向にあるけど、現地に腰を据えてカメラで撮影する昔ながらの映画を久しぶりに観た気がする。地平線までが見渡せるテキサスの広大な景色が映画にスケール感を与えている。Netflixは映画製作では新参者やけど、これからの映画づくりのあり方を変えていくのではと思わせる一本。
♡ Netflixが独自制作しているTVドラマも質の高いものが多いし、ハリウッドの大資本を向こうに回して、フットワークよくいいものを作ってくれたら楽しくなるね。本作もオスカー候補になったことで劇場公開されるかもしれないし。テーマは決して新しくないし、作りもきわめてシンプルながら、脚本、俳優、撮影のどれをとっても秀逸。週明けのアカデミー授賞式の行方が楽しみです!
予告編
スタッフ
監督 | デビッド・マッケンジー |
脚本 | テイラー・シェリダン |
キャスト
ジェフ・ブリッジス | マーカス・ハミルトン |
クリス・パイン | トビー・ハワード |
ベン・フォスター | タナー・ハワード |