レビュー

ふたりの女王 メアリーとエリザベス(Mary Queen of Scots)

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Mary Queen of Scots

キット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

16世紀英国の2人の女王を描く。『レディ・バード』のシアーシャ・ローナンがスコットランド女王のメアリー、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のマーゴット・ロビーがエリザベス1世を演じる。16歳でフランス王妃となるが、夫フランソワ2世の崩御で18歳で未亡人となったメアリーは、故郷のスコットランドに帰国し再び王位に就く。信仰に寛容なメアリーだったが、台頭するプロテスタント勢力が女性君主は神の意に反するとし、メアリーは何度も王座から追われそうになる。かたやイングランドを治めるエリザベスは、若く美しく、子ども産んだメアリーに複雑な感情を抱きつつ、やがて国家のために身を捧げていく。ケイト・ブランシェット主演の『エリザベス』を手がけたプロデューサー陣が、同時代に生きたメアリーに着目して製作。監督のジョージー/ルークは、ロンドンの演劇界で活躍する女性演出家で、これが初の映画監督作品となる。

 

言いたい放題

アイラ♡ 歴史ドラマのイメージのない2人の起用で、重厚な作品にはなるまいと思っていたら、予想以上に見応えがあった。中世絵画のような光と影を巧妙に用いたカメラワークはずっしりとして、そんななかに若いメアリーと女官たちを取り巻くガーリーな空気感が活かされて、もとは舞台劇の演出家だったという女性監督らしい視点があったように思うわ。

キット♤ 観終わって、改めて本作の舞台となった16世紀のイギリスの歴史を追ってみたけど、国と国との関係、王族の婚姻、宗教などが入り組んでかなりややこしい時代。2時間という限られた時間の中で、不要な部分を省略しつつ重要な部分はかなり忠実に描いた作品であることが分かった。メアリーを苦しめることになるカトリックとプロテスタントの対立のそもそもは、イングランド王のヘンリー8世が男の跡継ぎを生まない王妃キャサリンを見限って、愛人のアンとの再婚をローマ教皇に要請したが受け入れられず、ローマカトリック教会から脱して英国国教会を立ち上げたことに始まる。

♡ 王妃となったアンもまた、女児しか産めずヘンリー8世を落胆させ、姦通罪を捏造された挙げ句に斬首刑となる・・・ということは映画『1000日のアン』などにも描かれる話。その女児が後のエリザベス1世となるわけやけど、母親の死によって庶子となり、その身分のまま王位継承権は復活。そしてキャサリンの娘であるメアリー1世の死去をもって国王に即位する。

♤ 嫡出子と庶子との扱いが違うのは日本でもある話やけど、当時のイギリス王家では天と地ほどの差があったことは本作で改めて知った。エリザベスは王位こそ継承したけど、出生のいきさつによりイングランド女王の正当性に弱みがあったということ。宗教はすでにイングランドでは主流になっていたプロテスタント。

♡ 一方のメアリーはヘンリー8世の姉の孫にあたり、政争のあおりを受けてフランスのアンリ2世のもとへ半ば亡命して王太子と結婚。まさにその年にエリザベスは即位するのやけど、そのときアンリ2世からはエリザベスの国王としての正当性に疑義の申し立てがあったというから複雑。メアリーがフランス宮廷で育てられたことは、本作中でも彼女をとりまく洗練された雰囲気や堪能なフランス語によって描かれてる。さすがにスコットランドのお城は寒々しいばかりの石造りやけど・・・。

♤ メアリーは正当な結婚により生まれているので、スコットランド女王だけでなくイングランド女王の継承権も持っていたというので話がきな臭くなってくる。フランス育ちなので宗教はカトリック。そしてメアリー自身もエリザベスの存在を見下している。ちなみにメアリーには異母兄がいて、夫の死去でスコットランドに帰ってきた妹を迎えるが、こちらは庶子。本作でも、父親が同じなのに庶子というだけでメアリーからはまるで臣下のように扱われてたことが後への伏線となっていく。

♡ というわけで、主要登場人物の出自と宗教をめぐる対立について知っておいたほうが、より理解が深まる作品ではあるわね。

♤ 邦題からは、エリザベスとメアリーを対比する話のように思うけど、中盤からはもっぱらメアリーの物語。「Mary Queen of Scots」という原題のほうが、よりぴったりくる。スコットランドに戻ったメアリーは、王位に就いたものの国力ではイングランドに及ばず、周りの貴族はプロテスタントで彼女を歓迎していない。さまざまな陰謀が巡らされ、イングランドがそれを裏から支援するなど困難な状況が続くが、持ち前の才能を発揮して君臨していく。

♡ 2人目の夫は完全にダメダメやし、周囲に信頼できる人間のいないメアリーをシアーシャ・ローナンが熱演。女王であるときは終始凛とした表情を崩さず、私室に帰れば女官たちと楽しく戯れる・・・人間的な描き方がなされるがゆえに彼女への感情移入が深まっていく仕掛けやね。

♤ 『ブルックリン』ではどうかなと思ったけど、『レディ・バード』がなかなか良くて、本作では古典的な役どころをうまく作りながら、ふとした折りに一瞬現代的な雰囲気を感じさせてた。『レディ・バード』の印象が強かったからかな?

♡ 意外やったのはマーゴット・ロビーの起用。『アイ・トーニャ』以外にも『ウルフ・オブ・ウォールストリート』や『スーサイド・スクワッド』みたいな作品の印象が強くて、歴史ものはどうかしらと思ってたけど、徐々に女王としての威厳を身に着けていく凄みはよかった。なかなか幅広い演技のできる女優さんやね。

♤ メアリーと対峙するクライマックスの場面はよかった。エリザベスは当初、メアリーのことを王位を脅かす存在とみなし、彼女の美貌と才能に嫉妬していたけど、途中で「男として生きる」と割り切ってから人格が変わっていく。エリザベス1世については数多くの映画作品が作られているくらい興味深い女王やけど、本作では脇役。

♡ ケイト・ブランシェット主演の『エリザベス』の制作陣がメアリーに着目して手がけたのが本作ということなので、ペアで観るとまた面白いかも。本作では、メアリーの秘書のリッチオの謀殺や、再婚相手のダーンリー卿のキャラクターやその死などにも触れていて物語を面白くしてる。実際、これらにはさまざまな噂があるようで、史実かどうかはともかく話に厚みをつけている。結局メアリーは斬首されるわけやけど、息子のジェームズはスコットランド王となり、エリザベスの死後はイングランド王も継承するので、これが後のグレートブリテン王国の礎となっていく。メアリーの血はいまも続いていると思うと、どれだけ脚色が加わろうとも、やはり歴史ドラマには観るほどに醍醐味があるわね。

予告編

スタッフ

監督 ジョージー・ルーク
脚本 ボー・ウィリモン

キャスト

シアーシャ・ローナン メアリー・スチュアート
マーゴット・ロビー エリザベス1世
ジャック・ロウデン ヘンリー・スチュアート(ダーンリー卿)
ジョー・アルウィン ロバート・ダドリー(レスター伯爵)
デビッド・テナント ジョン・ノックス
ガイ・ピアース ウィリアム・セシル(バーリー男爵)
ジェンマ・チャン ベス・オブ・ハードウィック
マーティン・コムストン ジェームズ・ヘップバーン(ボスウェル伯爵)
イスマエル・クルス・コルドバ デビッド・リッチオ
ブレンダン・コイル マチュー・スチュアート(第4代レノックス伯爵)
イアン・ハート サー・ウィリアム・メイトランド
エイドリアン・レスター サー・トーマス・ランドルフ
ジェームズ・マッカードル ジェームズ・スチュアート(マリ伯爵)

 

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