おすすめ度
キット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.0 ★★★★
1990年代ポップカルチャーの象徴的作品であり、ユアン・マクレガーやダニー・ボイル監督の出世作となった『トレインスポッティング』(1996年)の続編。20年前、仲間たちを裏切って大金を持ち逃げし、オランダへ高飛びしていたマーク・レントン(ユアン・マクレガー)が故郷のエディンバラへ帰ってくる。流行らないパブを経営するシック・ボーイ(ジョニー・リー・ミラー)、家族に見放され自殺寸前のスパッド(ユエン・ブレムナー)、服役中のベグビー(ロバート・カーライル)の3人は、レントンとの再開によってどんな人生を選んでいくことになるのか・・・。
言いたい放題
アイラ♡ 前作を踏まえて観ると、ダニー・ボイル監督がいかに“あの”『トレインスポッティング』の空気を単なるノスタルジーに退化させることなく継承してるかがわかる。かつては“若気の至り”感満載で、いつも走ってるかラリってるかその両方かだったダメ野郎たち。歳月を経て多少は角も取れ、ちょっとは折り合うことを知った者もいるし、相変わらずなヤツもいるけど、社会が総じて豊かになった分、依然として滑稽で悲惨なおっさんたちの姿には哀愁すら漂うのよね。それでもなぜかカッコよさが残るのはダニー・ボイルの魔術なんやろなぁ。ロンドン五輪の開会式もかっこよかったしなぁ~。さすがです。もう手放し!
キット♤ 20年前、社会の底辺近くにいた5人組。トミーはエイズで亡くなり、刑務所で服役中のベグビー、ヤク中で自殺直前のスパッド、継いだバーが流行らず、東欧人のガールフレンドを巻き込んで恐喝を副業にするシック・ボーイ・・・と低空飛行のまま。かつてヤクで稼いだ大金を持ち逃げしたレントンは、学歴も資格もない中で壁にぶち当たり、離婚して故郷に戻ってくる。前作と同じ俳優が演じる4人はそれぞれに20年分の齢を重ねているけど、一番変化したのは精悍な顔つきだったベグビーやな。頬から顎にかけて肉がついてすっかり人相が変わった。でも危なさにはもっと磨きがかかってる。
♡ 映像のスタイリッシュさは健在やね。セットのシーンでは、必ずどこかに人工的な原色の光線を当てて非現実的な空間を作っているのは前作の雰囲気そのまま。ラリっているときに多用されるちゃちなセットでのシーンと、スコットランドの荒々しい平原やエディンバラの街を遠景で見せるすがすがしいシーンを違和感なく混在させているのもすごいと思う。嫌悪するほどのグロい描写も、本作ではオマージュ的に何度か描かれるものの、全体としてはかなりマイルドになってるし。
♤ 死んだ赤ん坊が天井を這ってくるとこや、汚いトイレの場面など、前作はトリップした場面でのシュールな映像が際立ったけど、今回はトリップシーンこそ少ないけれど、自殺しかかっているスパッドをレントンが助ける場面を、高層ビルから落ちるスパッドを地上スレスレで受け止めるイメージに置き換えるところなどキレの良い演出は健在。レントンとスパッドがジョギングしていく丘の上から眺める街の景色は綺麗やったな。ただ走り回っている感じやった前作に比べて、こういう落ち着いた場面も交えた大人の構成になっている。
♡ 忘れてならないのはやっぱり音楽よね。前作も、イギー・ポップやルー・リードなどの曲が使われて、音楽に惹かれて映画を観たという人も少なくなかったはず。今回もここぞ!というところで効果的に新旧の音楽が仕込まれてて、かつてブリティッシュカルチャーに憧れた身には涙もの。前作にも使われた曲を、レコードの針を落とした一瞬だけ止めてしまったり、前作の映像を時々絡ませたりする演出には、“もはや過去とは違う”というメッセージを感じたりもしたわ。
♤ 前作では、メインキャラであるレントンの独白で話が進むようなところがあったけど、本作では各自がセリフを喋り客観的にカメラが撮るような作りになってる。どちらかというと端役だったスパッドが準主演級の扱いになっているのもみるべき点やな。特に、後半ヤクを断って禁断症状に苦しみながら新たな才能を発見していくところなんか観る人の共感を呼ぶところやと思う。
♡ 誰が準主役なのかといえば、観る方向によっては、ベグビーを主人公とする復讐物語ともいえるのよね。ダメダメ人生ながら、なんだか光明の射した感じのするスパッドに対して、今後一切シャバとは縁のなさそうなベグビー、ダメなりに生きていけそうなレントンとシック・ボーイ。前作に比べて各人の内面が深く掘りこまれた分、レントンが連呼する“Choose Life”という言葉はずっしり響く。選べると思ってた人生やけど、実はそんなに選択肢なんてなかった・・・。もうひとつ言えば、ものすごく作品に恵まれてきたとはいえないユアン・マクレガー。本作でようやく自身の出世作を超えたような気がする。そしてすごくいい俳優になってると実感したわ。
♤ そういえば、キューブリック監督へのオマージュが各所に見られたやろ。たとえばベグビーが大槌を振るって壁に穴を開けたところから顔を突き出すところは『シャイニング』そのもの。あと、レントンとシック・ボーイがラリっているシーンで鹿のような動物の群れが上下逆さまで壁に投影されているところには、やはり『シャイニング』の舞台となるオーバルックホテルのカーペットの模様に似た映像が重ねられてる。
♡ あとで知ったけど、前作でもキューブリック監督の『時計仕掛けのオレンジ』とそっくりに壁面装飾されたバーが出てくるのよね。『時計仕掛け・・・』も、無軌道なイギリスの若者たちが主人公やったわけで、また前作を観て確認しなくては!
♤ 観終わってみると、ハラハラさせられるところから笑わさせられるところまで盛り沢山に詰め込まれてるけど、決して消化不良にならず、ほどよい満腹感で映画館を後にできる感じ。前作からの再結成となったキャストたちと監督、そして脚本(ジョン・ホッジ)のタッグが非常にうまくいってるんやな。
♡ 考えれば、そこには前作から一貫する“チャンスと裏切り”の堂々巡りがあるのよね。この輪廻転生みたいな構造もうまいなぁ。ただ、60代の4人が観たいかといえばなぁ・・・『T3』は作らなくてもいいよね!
予告編
スタッフ
監督 | ダニー・ボイル |
原作 | アービン・ウェルシュ |
脚本 | ジョン・ホッジ |
キャスト
ユアン・マクレガー | レントン |
ユエン・ブレムナー | スパッド |
ジョニー・リー・ミラー | サイモン/シック・ボーイ |
ロバート・カーライル | ベグビー |
ケリー・マクドナルド | ダイアン |
アンジェラ・ネディヤルコーバ | ベロニカ |
アービン・ウェルシュ | マイキー |