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英国総督 最後の家(Viceroy’s House)

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Viceroy's House

キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

1947年、最後のインド総督としてデリーに赴任したルイス・マウントバッテン。豪華で広大な総督府では信仰の異なる500人もの使用人が働き、青年ジートとルイスの令嬢秘書アーリアは、宗教の違いを超えて惹かれあっていた。ルイスの周囲では独立後のインドのあり方をめぐって日夜議論が続き、統一インドの建国を望む多数派と、宗教対立を避けるためパキスタンを分離独立させたいムスリム側の考えは衝突。背後にはイギリス政府のしたたかな思惑もあった。監督は『ベッカムに恋して』のグリンダ・チャーダ。自らの祖父母も分離独立の混乱に巻き込まれたという。マウントバッテン総督に『パディントン』などのヒュー・ボネビル。ルイスの妻エドウィナ役に『X-ファイル』のジリアン・アンダーソン。

 

言いたい放題

キット♤ 第2次世界大戦終結後、もはや超大国として植民地経営を継続することができなくなったイギリスが、インドの植民地を解体して主権をインド国民に譲渡する時期が舞台。円滑に独立を進め撤退するため、最後のインド総督として赴任してきたのがマウントバッテンとその家族。物語は彼らを中心とする政治の視点と、総督のもとで働くヒンズー教徒のジートとイスラム教徒のアーリアたち一般国民の視点、この両者を絡めながら進む。

アイラ♡ ポスターや邦題から受けるほんわかした印象とは違って、客観的に歴史を伝えようとする骨太な作品やね。平和裏にインドを譲りたいマウントバッテンの当初の思惑に対し、現地の事態がどんどん悪化し、国も人々も大きく翻弄されていく様子を丁寧に描いてる。

♤ ヒンズー教徒を主体とするインドとイスラム教徒の国パキスタンに分かれて独立したことは歴史的認識として持ってたけど、舞台裏まではよく知らなかったので非常に興味深かった。マウントバッテンは当初、統一インドの独立をめざして、ガンディーやネルー(初代インド首相)、ジンナー(初代パキスタン総督)ら有力者と会談したが意見はまとまらない。そうこうしているうちに、地方での宗教対立が暴動や虐殺へとエスカレートするのを防ぎきれず、ジンナーにやや押し切られる形で分離・独立へと考えを変える。映画でのこのあたりの描写は予備知識がなくても分かりやすい。

♡ びっくりするのが、3人の歴史上の有名人を本人そっくりな俳優たちが演じていること。しかもそれぞれの演技がとてもいい。ガンディーの「神が国境線を引くのか」という言葉は印象的。役者さんは歯もないし・・・。これに対し総督府に働く500人の使用人たちは、宗教は違ってもゆる~い結びつきできちんと働いていたのに、独立の話が具体化するにつれて職場内部で対立を深めていく。

♤ 相互に思いを深めあってきたジートとアーリアも、アーリアが父親と住む家が暴徒に襲われたりして前途多難。ジートも仕事も諦めてカラチへの移住を決意したアーリアが乗った列車が襲われ、乗客全員絶望との報を聞いたジートは総督に怒りを向ける。

♡ 政治的な内容だけで全編を貫く手法もあったのでしょうけれど、見目麗しい若い男女のロミオとジュリエット的なエピソードを使って国民側の苦難を描く。インド映画らしい歌や踊りもさりげなく取り入れ、娯楽作的なスパイスを振りかけたことで観やすい作品にしてるわよね。

♤ 現実には、独立に合わせて発表されたインドとパキスタンとの国境線は、パンジャーブ州とベンガル州を分断していてその結果国民の大移動が発生。さらに暴動と虐殺で100万人が亡くなったというからスケールが違う。

♡ ジートとアーリアはそうした人々の象徴として存在する。イギリスによるインド統治が、もっと人種や宗教に配慮したものであればあの混乱はなかったという主張も込められてるんやろね。

♤ 歴史的事実を曲げることはできないから、ほぼすべて史実に則ってるものとは思う。ただ作品中、マウントバッテン裁定と呼ばれたインドとパキスタンとの分離独立は、実はチャーチルの時代にイギリスがパキスタンの石油とロシアに対する戦略的な地点を確保するためにジンナーと密約を結んでいたということになっていて、ここが事実なのか脚色なのかがよくわからなかった。

♡ マウントバッテン一家の人々についても、インド国民から身近な使用人に至るまで常に気持ちを配る善良な人々として描かれてる。ここまでいい人たちだとちょっと眉唾な感じも受けたけど、監督がインド人を両親にもつイギリス人で、祖父母が実際に独立当時の混乱の経験者であるという立ち位置を考えると、実際にそうしたご一家だったのかなという気がするわね。

♤ マウントバッテン役はTVドラマの『ダウントン・アビー』シリーズでお父さん役だったヒュー・ボネビル。マウントバッテン本人とは似ていないが、イギリス軍人で紳士という役柄にはうってつけ。夫人役のジリアン・アンダーソンは『X-ファイル』シリーズでスカリー捜査官を演じてた。

♡ マウントバッテン総督のキャラクターは、貴族としての矜持を常に忘れず、統治する人々に温かい目を注ぐダウントン・アビーのグランサム伯爵にぴったりそのまま重なる。この雰囲気を期待されての出演オファーやったやろなと勝手に決めてる(笑)。インド、パキスタン、さらにはカシミールをめぐる問題がいまなお続いていることを考えると、その原点ともいえる印パ独立の経緯を知ることには大いに意義がありました。

 

予告編

スタッフ

監督 グリンダ・チャーダ
脚本 ポール・マエダ・バージェス
グリンダ・チャーダ
モイラ・バフィーニ

キャスト

ヒュー・ボネビル マウントバッテン卿
ジリアン・アンダーソン エドウィナ・マウントバッテン
マニシュ・ダヤル ジート・クマール
フマー・クレイシー アーリア
マイケル・ガンボン ヘイスティングス・イズメイ
ダンビール・ガニー ジャワーハルラール・ネルー
オム・プリ アーリアの父
ニーラジ・カビ マハートマ・ガンディー
サイモン・キャロウ シリル・ラドクリフ
デビッド・ヘイマン エワート
デンジル・スミス ムハンマド・アリー・ジンナー
リリー・トラバース パメラ・マウントバッテン
ジャズ・ディオール トゥリープ

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