おすすめ度
キット ♤ 3.0 ★★★
アイラ ♡ 4.0 ★★★★
1980年代のイタリアの美しい風景をバックに、17歳と24歳の青年たちのひと夏の情熱的な恋を描く。原作はアンドレ・アシマンの同名小説。脚本は『日の名残り』『眺めのいい部屋』の名匠ジェームズ・アイボリー。監督は『胸騒ぎのシチリア』などのルカ・グァダニーノ。2018年アカデミー賞で作品賞ほか4部門にノミネートされ脚色賞を受賞。主演は『インターステラー』『レディ・バード』などで注目され、本作でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたティモシー・シャラメと、『ソーシャル・ネットワーク』『J・エドガー』のアーミー・ハマー。
言いたい放題
アイラ♡ これ以上ないほど耽美的でありながら、さわやかさと苦味の入り混じった後味を残すボーイズラブロマンス。全編に使われるピアノ曲と、夏の北イタリアの鈍い陽光が作品に格調を与えてる。
キット♤ 冒頭からクレジットが出る。背景にあるのは、デスクの上に置かれたギリシャ・ローマ時代の彫刻の写真。そこにパステルで手書きしたようなクレジットが重ねられるという洒落たデザインのオープニング。主人公のエリオの父が考古学者であることも絡め、ギリシャ・ローマ時代のイケメンを1980年代に移し替えて映像化するというのがこの映画の狙いなのかなと思った。
♡ 舞台は1980年代の北イタリア。両親ととも別荘で過ごしていた17歳エリオ(ティモシー・シャラメ)は、考古学者である父のアシスタントとして滞在することになった大学院生オリヴァー(アーミー・ハマー)と知り合う。出会ってまもなく、エリオは歳上のオリヴァーに対する特別な思いに気づく。一緒に自転車で街を散策したり泳いだりするうちに、その思いはどんどん深まっていく・・・。ここのところのもどかしい感じがすごくいい。エリオは同時に童貞を捨てたがってもいて、女友達にも接近してるんやけど、心と身体が別の方向をむいている複雑な心理をさりげなく、でもよく表現してたなぁ。
♤ ティモシー・シャラメは目鼻立ちのはっきりした美少年で、ギリシャ彫刻との類似性を感じるし、映画の中ではほとんどパンツ一丁。でもその上半身はほっそりした少年の体つきのままで、ゴリアテに石を投げようとしているダビデもマッチョではなかった。
♡ 私も、筋肉のないつるんとした身体でよたよた歩くエリオの姿がミケランジェロの少年ダビデ像そのままやなぁと思ってた。ギリシャ・ローマ時代は男性同士の恋愛も普通やったというし、水中から引き揚げられた古代彫刻にもそのあたりの暗喩が込めてあるのでしょうね。一つひとつの場面はどれもとても美しいのやけど、予想以上にハードな場面もあって、どぎまぎしてしまったりもしたけどね。でもエリオには初めてのひと夏の恋という設定と考えれば、これくらいの熱烈な恋ってのもまたよしかな。
♤ イタリアの田園風景、豪華ではないがしっかりとした作りの別荘の建物や調度など、映像がすごくきれい。エリオとオリヴァーのどちらかを女性に変えても、恋愛映画としてそのまま成り立ってしまいそうな感じではあったけど。というのも、エリオもオリヴァーも相手に嫌われているのではとか、思いが伝わらないのではという気持ちはあるものの、相手が男であることによる躊躇や抵抗、悩みなんかがひとかけらもないから。その点では、ゲイやLGBDの映画というくくりを超越した普遍的な恋愛の映画なのかもしれない。
♡ 系譜としては『個人教授』みたいな昔のフランス映画が得意とした、歳上女性が10代の少年に恋の手ほどきをする・・・的な作品の流れといえるかも。でも本作には何かもっと文学的な格調の高さがある。桃の場面はこの作品のクライマックスやと思うけど、すごくエロチックなのに扇情的にならず品の良さが保たれてて純文学のよう。何というても、エリオがどんだけアホなことしてても美しすぎて視線が離せなかったわ~(笑)
♤ それに比べて、アーミー・ハマーは男前やけど多少もっさりしてたな。
♡ いや~、『J・エドガー』でフーバー長官の恋人を演じたときから、なんてきれいな人でしょう!って思ってたよ。身体も大きいし、まさに“美丈夫”と呼ぶにふさわしい。ただエリオの相手としては、なんかもうひとつお似合いじゃない感じはした。というか、彼に24歳の役はきつかったかな。美男だけど、ちょっとみずみずしさに欠ける感じ。でも、捕まえてもすぐ暴れようとする子鹿みたいなエリオに不安をかきたてられる青年の戸惑いがとてもよかった。
♤ どっちにしても、そないときめくことはなかったな。エリオの環境が、父親は学者、母親はお手伝い付きの別荘を相続するくらいの金持ちで、ドイツ語の小説を翻訳しながら朗読できるような人。エリオ自身も英語、フランス語、イタリア語ができてピアノとギターを演奏し、趣味で作曲する才能があり、大人と哲学も語れる。それでイケメンとなると感情移入せぇといわれてもなぁ・・・。
♡ せんでよろしい(笑) エリオが恵まれているのはそれだけじゃなく、両親が息子を最初から大人として育てているようであること。決して放任しているのではなく、要所要所は観察しながら必要なことだけ伝えるという距離感がいい。エリオがオリヴァーのアメリカ訛を揶揄するあたりから、きっと両親は息子の気持ちに気づいてたんでしょうね。
♤ 父親も一人の人間として息子に接してたな。
♡ 忘れてはならないのが、3分半ほどのエンドロール。あの夏が二度と戻ることはないと気づいたエリオが、暖炉にぼんやりと向かいながらさめざめと泣く。ただ顔のアップが続くだけやのに、思い出に浸り悲しみに耐える表情はいつまでも観続けていたいほどやった。そのときハエが一匹、エリオの左胸にとまるのに気ぃついた? 映り込んだのなら画像処理で容易に消せるのに、あれは何やったのかなぁ・・・。
♤ そらそうと、原作では彼らは15年後に再会するということになっているそうで、続編の映画化がすでに計画されてるらしいで。
♡ エリオがおっさんになってるのは観たくないです!
予告編
スタッフ
監督 | ルカ・グァダニーノ |
原作 | アンドレ・アシマン |
脚本 | ジェームズ・アイボリー |
キャスト
アーミー・ハマー | オリヴァー |
ティモシー・シャラメ | エリオ |
マイケル・スタール | バーグパールマン教授(エリオの父) |
アミラ・カサール | アネラ(エリオの母) |
エステール・ガレル | マルシア |
ビクトワール・デュボワ | キアラ |
バンダ・カプリオーロ | マファルダ |
アントニオ・リモルディ | アンキーゼ |
アンドレ・アシマン | ムニール |
ピーター・スピアーズ | アイザック |