おすすめ度
キット♤ 3.5★★★☆
アイラ♡ 4.0★★★★
『プラダを着た悪魔』のデビッド・フランケル監督が、愛娘を亡くして生きる気力を失ってしまった男を、彼を取り巻く同僚たち、そして彼ら全員を変えていく3人の不思議な“役者”たちとともに描くファンタジックな物語。主演にウィル・スミス。さらにケイト・ウィンスレット、エドワード・ノートン、マイケル・ペーニャ、ヘレン・ミレン、キーラ・ナイトレイといった一線級俳優を豪華に揃えながら、役者陣の名前に溺れない良質の佳作に仕上げている。
言いたい放題
キット♤ まず、邦題の『素晴らしきかな、人生』には大いに文句を言いたい! 古い映画を知っている人ならフランク・キャプラ監督の名作『素晴らしき哉、人生!(It’s a Wonderful Life)』を当然連想するやろ。でも全く関係ない。
アイラ♡ 大物の登場人物がどんどんどんどん出てくるので、冒頭30分くらい、ひょっとしたらウィル・スミスひとりを主人公とはしない、緩めのオムニバスみたいな構造なのかと思いながら観てたの。クリスマス時期の話でもあり、キーラ・ナイトレイも出ていたオムニバス映画『ラブ・アクチュアリー』を連想したのやけど、そうではなかったわ。けど配給会社の担当者も同じことを思ったのか、日本版ポスターを『ラブ・アクチュアリー』そっくりの作りにしたのは安易やわぁ。テーマも切り口も違う作品なのに・・・。
♤ いつものことながら、配給側の問題は根深いな(笑) ただ原題の『Collateral Beauty』って日本語に訳しにくい言葉なので、苦労したやろなとは思う。“collateral”には「見返り」とか「付随した」という意味があるようで、字幕では“おまけの幸せ”っていうてたけど。
♡ ここでは、辛さを耐えぬくことで、それに値する素晴らしいものが得られる・・・という意味に解釈できそう。がんを克服した人がしばしば、病気で失ったものもあるけど、新しい価値観や素晴らしい人間関係を得たという意味で“キャンサーギフト”という言葉を使いはるのやけど、それに通じるものかなとも思ったわ。
♤ 映画の中身やけど、何といっても主要登場人物の多さ。まず、6歳の娘を病気で失って何も手につかなくなり、離婚して経営する広告会社も3年間放っぽったままの主人公ハワード(ウィル・スミス)。その共同経営者や同僚であるホイット(エドワード・ノートン)、クレア(ケイト・ウィンスレット)、サイモン(マイケル・ペーニャ)。この3人がハワードを立ち直らせる方策として雇う舞台俳優にブリジッド(ヘレン・ミレン)、エイミー(キーラ・ナイトレイ)、ラフィ(ジェイコブ・ラティモア)。さらに子どもを亡くした親の会を主催するマデリン(ナオミ・ハリス)。ほぼ全員が主役を張れるキャリアの持ち主やけど、友情出演みたいにちらっと出すのではなく、全員に均等に役割が与えられてる。
♡ しかもこれだけの登場人物が全員出揃うまでを、冒頭で一気に流れを作ってまとめてるのが実にうまいと感じたわ。たとえばキーラ・ナイトレイをウイリアム・ノートンが追っていく場面。オフィス、地上、地下へと流れるような動線を作って、観る者を近代的なビルから古びた小劇場という異空間へと引き込み、“役者”たちと出会わせる。スピーディーで無駄のない演出やと思った。
♤ 作品のキーワードとなっているのが、気力にあふれていたころのハワードがスピーチで語った「愛」「時間」「死」 の3つ。同僚たちはこれを手がかりにハワードの立ち直りを図っていくんやけど、同僚3人と俳優3人をそれぞれに割り当てるというやり方はうまいな。登場人物の多さにも混乱がなかったし。
♡ その過程で、同僚3人も実は個々に問題を抱えていることがわかっていくんやけど、マデリンをも含めて、個々人にまつわるエピソードをラストへ向けて一気に回収していく手際が実に鮮やか。ラストもあざとさがなくてよかったんと違う?
♤ それぞれが抱えていた問題に対して前向きに進み始めることも“Collateral Beauty”といえるしね。全てがハッピーというわけではないけど、現実を納得し率直に受け入れることで前進があるという、なんかいい感じの終わり方。
♡ では“役者”であるところの3人は一体誰なのか・・・ということやけど、ここは詮索しすぎたらあかんとこなんやろね。同僚たちが彼らのところへ導かれるのも、3人それぞれに「愛」「時間」「死」という役柄を引き受けるのも最初から用意されていたかのよう。では彼らは神の使いなのか?みたいな問いにはあまり意味はない。おそらく、人には自ら苦悩に打ち勝っていく力が備わっている。その鍵となるものは、やはり愛だったり時間だったりするということを、3人の“役者”に象徴させたのではないかな。
♤ キャスティングの豪華さでアカデミー賞作品賞を狙うような大作ではなく、全体に程よいサイズ感かな。アメリカ映画には伝統的に、大作やないけど観終わって「よかった」と思わせる佳作が数多くあって、これもそういう作品やね。
♡ そう思う。
♤ だいぶ褒めてきたけど、観ていて覚えた微妙な違和感もある。まずハワードの絶望と落ち込み方が激しすぎて、実感としていまいち共感しにくかった。夜、自転車で一方通行の車道を逆向きに疾走するのはありえんやろ、死ぬで。あと同僚3人が、ハワードが会社経営能力を失っていることを証明するために3人の俳優を使うところまではよしとしても、撮影したビデオを都合よく編集するのは犯罪やん。その分と邦題のまずさを減点して、評価は3.5。
♡ うん、つじつまの合わないところは色々あったとは思う。けど、クリスマスにかこつけるのは欧米人の悪いクセやとして(笑)、これは誰もが直面する苦悩を抱える大人たちに贈られたファンタジックなプレゼントってことでええのと違うかな。苦しみから脱する糸口は、ふとしたことをきっかけに自ら見つけるもの。“役者”の3人が何であろうと、ときが至れば誰もが気付けるはずのことを知らせに現れただけ。人の心のなかに本来備わっているものやったのかなと思います。
予告編
スタッフ
監督 | デビッド・フランケル |
脚本 | アラン・ローブ |
キャスト
ウィル・スミス | ハワード |
エドワード・ノートン | ホイット |
ケイト・ウィンスレット | クレア |
マイケル・ペーニャ | サイモン |
ヘレン・ミレン | ブリジット |
ナオミ・ハリス | マデリン |
キーラ・ナイトレイ | エイミー |
ジェイコブ・ラティモア | ラフィ |