おすすめ度
キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆
『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』の原作者フィリップ・ディジャンの小説『oh…』を実写映画化したサスペンス。ゲーム会社のCEOであるミシェルは、ある日突然、自宅に侵入してきた覆面男から暴行を受ける。警察に告発せず、自力で対処しようとするミシェルだったが、やがて犯人が身近な人間であることがわかってくる。事件が何度もフラッシュバックし、自らのうちに潜む欲望や衝動に突き動かされるままに行動していくミシェルの身に再び悪夢が襲いかかる・・・。『氷の微笑』のポール・バーホーベン監督。主演は『ピアニスト』のイザベル・ユペール。第74回ゴールデングローブ賞で、最優秀主演女優賞と最優秀外国語映画賞を受賞。イザベル・ユペールは第89回アカデミー賞で主演女優賞にノミネートされた。
言いたい放題
キット♤ 劇場予告を観てサスペンスものだと思っていたら、たしかに冒頭で主人公の女社長ミシェル(イザベル・ユペール)の自宅へレイプ犯が押し入る場面、手袋をはめた犯人の手がばっ!と扉を掴む一瞬は心臓がドキッとするほどで、この調子でこの先何が起こるか分からないドキドキ映画なのかなと予想していたら ・・・ 全然違った。
アイラ♡ それこそ恐怖感に満ちた犯罪スリラーかという始まり方なんやけど、実はその後のスキャンダラスな展開のほうが怖い!って作品。観終わって、ふう~っとため息をついてしまうような。
♤ 犯人が去ったあと、ミシェルは割れた花瓶などをただ黙々と片付けて、何事もなかったように泰然とふるまう。しかもその数日後、別れた夫や共同経営者夫婦との食事の場で、何者かにレイプされたこと、警察に届けていないことを平然と話す。怖がっているふうでもないが、護身用にと唐辛子スプレーを買うときに追加で斧を買うシュールさ。ところがどれだけ話の展開を追えども、ミシェルが危ない目に会うのではないかと心配する気が全く起こらない。半分くらい進んだところで、どうやらこの映画はサスペンス物ではないと分かってきた。
♡ 会社の経営者として成功しているミシェルは、50代はじめくらい? いかにも自立した女性ではあるけれど、事件後の彼女は被害者であるにも関わらず、むしろふてぶてしさを増して、衝動のおもむくままに行動するようになっていく。まるで何かのタガが外れたみたいに。会社の共同経営者と白昼オフィスで平然と関係を持ち、社員にも異様なことを求め、隣家の夫には秋波を送る・・・。
♤ 対する男どもはというと、女性関係が原因で別れた元旦那は売れない作家で、ミシェルの会社が作るゲームソフトのシナリオに参加したいと思っているけど才能がない。共同経営者の夫はミシェルとの浮気がバレて嫁さんに放り出される。ミシェルの母親が囲う若いツバメは、この母親が急死したあともアパートに居座ろうとする。ミシェルの息子は生活力がなく、ガールフレンドが産んだ赤ん坊の肌の色が黒いのに父性には目覚め、嫁の尻に敷かれっぱなし。かつて大量殺人を犯して服役中の父親は、ミシェルが面会に来ると聞いて面会前日に自殺してしまう。そして判明したレイプ犯人も間が抜けている・・・。要は、ここに出てくる男たちはゲスで頭が悪くて、どうしょうもない連中ばかり。それに比べて、女性陣はしぶとい強さをみせるミシェルを筆頭に、ツバメ飼いのお母ちゃん、浮気夫を蹴り出す共同経営者、明らかに別の男の子を産みながら悪びれない嫁・・・と、強くて賢くて、かっこいい。
♡ 男性にかっこいいと感じてもらえたら、この映画もある意味成功なんやろね。何ったって極めつけは隣家の嫁やろね。夫の性癖を知りつつ泳がしていた風でもあり、最後に驚くべきセリフを残して去る。あ~こわっ!
♤ 男を徹底的にこき下ろして女を賛美するという物語を一捻りして、サスペンス風にしてみただけで、実はコメディやないかという気さえしてくる。とはいえミシェルの想定以上の強さ、特にレイプ犯にきっちりと落とし前を付けて表情も変えないところとか、父親の大量殺人に関与していたのではと匂わせるところで、途方もないダークネスを抱えているのではと思わせながら答えがないところがうまい。
♡ せやねん。凶悪犯の娘として社会にさらされて生きてきたミシェルの半生は相当タフなものやったはずで、間違いなく生半可な精神力の持ち主ではない。いまの地位を築くまでには失うものも相当あったやろし。そんな彼女やからこそ、この逆境にひとりで対峙できたのであって、作品も彼女のやることすべてについて否定も肯定もしていない。
♤ 監督がポール・バーホーベンであることは、観終わってから気がついたんやけど、このオランダ人監督は『ロボコップ』『トータル・リコール』『氷の微笑』『スターシップ・トゥルーパーズ』などを撮った人。面白いのは、彼はミシェル役にニコール・キッドマン、ダイアン・レイン、シャロン・ストーン、ジュリアン・ムーア、マリオン・コティヤール、シャーリーズ・セロン、カリス・ファン・ハウテンなどを想定していたそうで、ところがイメージダウンを怖れて皆オファーを固辞。結局、ミシェル役を熱演したイザベル・ユペールが初めてアカデミー主演女優賞にノミネートされた。御年60を超えているのに、カメラの角度では40代くらいにしか見えないのはすごいな。
予告編
スタッフ
監督 | ポール・バーホーベン |
脚本 | デビッド・バーク |
キャスト
イザベル・ユペール | ミシェル |
ローラン・ラフィット | パトリック |
アンヌ・コンシニ | アンナ |
シャルル・ベルリング | リシャール |
ビルジニー・エフィラ | レベッカ |
ジョナ・ブロケ | ヴァンサン |