レビュー

リヴァプール、最後の恋(Film Stars Don’t Die in Liverpool)

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Film Stars Don't Die in Liverpool

キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

1950年代にハリウッドで活躍し、『悪人と美女』でオスカー助演女優賞に輝いた往年の女優グロリア・グレアムと、無名俳優ピーター・ターナーの年齢とキャリアの違いを超えた恋愛を描く。原作はピーター自身の回顧録。グロリアにはアネット・ベニング、ピーターをジェイミー・ベルが演じる。1981年9月、ピーターのもとにかつての恋人グロリアがランカスターのホテルで倒れたとの報が届く。ピーターは、「リヴァプールに行きたい」と懇願するグロリアを実家へ連れていき療養させる。グロリアとの再会を喜ぶピーターの家族だったが、グロリアは自分の病状を語ろうとしない。実は彼女にはもう時間が残されていなかった。

 

言いたい放題

キット♤ 予備知識なしに観て、けっこう無理なシチュエーションやなと思ったら実話に基づく物語やった。実は知らなかったけど、グロリア・グレアムは1952年アカデミー助演女優賞を取った実在の女優。4回結婚していて、そのうちのひとりが『理由なき反抗』や『北京の55日』の映画監督のニコラス・レイ。本作の舞台となるのはは、彼女が57歳で亡くなる最後の3年間くらい。その時期に彼女のボーイフレンドで、当時まだ駆け出し同然だったピーター・ターナーという俳優の回顧録が原作になっている。

アイラ♡ 前半は少し謎めいた進行。もはや若いとはいえないグロリアが病気で倒れ、それを実家に連れ帰って家族ぐるみで看病するピーター。幼女のような甘え声でピーターを頼るグロリアに、最初ちょっと嫌悪を感じてしまったのやたけど、次第に2人の関係が見えてくることで印象が変わっていく。

♤ 冒頭、アネット・ベニング演じるグロリアが開演前の楽屋で化粧をし、かつらを被って、口紅を引いて、発声練習をするシーンが映される。実年齢60歳のアネット・ベニングとほぼ同年代のグロリアやけど、化粧では隠しきれない皺や衰えを映画はリアルに映し出す。舞台へ出る用意が出来てタバコを吸いかけると、スタッフが「5分前です」と伝えにくる。こうやって、グロリアがちゃんと時間を計って準備をするベテラン女優であることを知らしめる演出が上手。そのグロリアが突然倒れ、そのことがピーターに知らされるところから話が展開していく。

♡ 2人がかつてリヴァプールで知り合って恋に落ちる「前期」と、別れた2人が再開してからの「後期」が交錯する構造。時系列が入り交じる演出はよくあることやけど、ピーターが扉を開くとその先に異なる時代や場所が現れて、違う空気感をもったシーンへとつなげていく工夫がちょっと斬新。

♤ 親子ほど年の離れた2人が恋愛関係になるというのがこの映画のキモやけど、「前期」ではグロリアはソフトフォーカス、アップなしで撮られていて見た目はかなり若い。それに加えてグロリアが妙に可愛らしい声で喋るので歳を感じつつも、それなりに若くみえる。一方、「後期」は容赦ないアップの撮影でかつての大女優の衰えを見せつける。

♡ 名声をほしいままにして、ちやほやされていたころの自分が忘れられず、いまだわがままで高飛車な性格から抜けられないグロリアの姿には、『サンセット大通り』や、最近ではウディ・アレンの『女と男の観覧車』などを思い出すけど、グロリアにはそこまでの狂気や偏執的な面はない。でも、ピーターが無神経に年齢のことを口にすると血相を変えて怒りをぶちまける。加齢、ましてや病気で衰えていく容色を正面から受け止められない悲しさは痛々しい。そんな彼女を受け止めるピーターの包容力にも、最初はなんか違和感があったけど、グロリアにはそれだけの魅力があったんだろうと思う。

♤ アネット・ベニングは出演作も多くて、良作に恵まれた実力派やけど、いまひとつ代表的主演作っていうのがない。英国アカデミー賞とゴールデン・グローブは受賞してるけどオスカーには縁がなく、「未だアカデミー賞を受賞していない名優」といわれている。最近では『キャプテン・マーベル』でマー・ベル博士の役を演ってるけど、60歳という実年齢よりも若く見えるよな。本作では、容姿が衰えたかつての大女優という、ひとつ間違えば“痛い”役柄を見事に演じてたと思う。代表作になっていくのと違うかな。一方のピーター役は『リトル・ダンサー』でビリー・エリオットを演じたジェイミー・ベル。ピーターは駆け出しの俳優で、頑張ってはいるけどアネット・ベニングの前ではまだまだという感じ。でもそれがかえってこの役柄に合っていて意外と良かった。

♡ 『リトル・ダンサー』の印象が強すぎるから、「親戚の子がこんなにおっきくなって~」みたいな気分でついジェイミー・ベルを見てしまうので、ラブシーンにはちょっとどぎまぎしてしまったけど、あの青い感じでグロリアに尽くしぬく役どころはよかった~。サービスショットなのかディスコダンスを踊ってくれたりして、ビリー・エリオットのファンにはたまらんものが・・・。

♤ ただ、死期を迎えたグロリアが息子とアメリカへ帰るとき、なんで一緒に行ってやらんかったのかというのはある。

♡ そうやね。たぶん彼なりのけじめのつけ方なんやろね。最後、グロリア・グレアム本人のオスカー受賞シーンが映されるのやけど、ただ「ありがとう」とだけ言うの、これ史上最短の受賞スピーチなんですってね。悪女役で知られ、実生活では4人目の夫がニコラス・レイの息子だったことでスキャンダルにもまみれた女性やけど、本作で描かれるのは人々から忘れられかけた落ち目の女優。でもピーターがいてくれたことで、彼女の最晩年はいくらかでも輝いたと思いたい。劇中に使われる“California Dreamin’”はホセ・フェリシアーノのバージョンで、哀愁があっていい。あと、エンドロールに流れるコステロの“You Shouldn’t Look At Me That Way”は本作のために書き下ろされたものとのことで、こちらも沁みます。

 

予告編

スタッフ

監督 ポール・マクギガン
原作 ピーター・ターナー
脚本 マット・グリーンハルシュ

キャスト

アネット・ベニング グロリア・グレアム
ジェイミー・ベル ピーター・ターナー
ジュリー・ウォルターズ ベラ
バネッサ・レッドグレーブ ジーン・グレアム

レクタングル336

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