おすすめ度
キット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.0 ★★★★
安全・安価な生理用品の開発と普及に奔走したインド人男性の実話物語。いまなお女性の生理を不浄と考えるインドのある村で、ラクシュミは高価な生理用品が買えず不衛生な布で処理する妻のため、外国製品を模した清潔で安価なナプキンの手作りに挑んでいた。日夜生理用品の研究に没頭するラクシュミを村人は白眼視し、妻もそれを死ぬほどの恥だという。やがて彼の熱意を理解した女性パリーの協力を得て、ついに低コストで大量生産できる製造機を開発。それは農村の女性たちに、ナプキン製造だけでなく労働と収入確保の機会を与えていくことに・・・。主演は『チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ』のアクシャイ・クマール。
言いたい放題
キット♤ 絶好調が続くインド映画の中でもこの映画はやや異色。インドで所得の低い一般人でも買える安価で衛生的な生理用ナプキンを開発、商品化して普及させた実在の人のお話。
アイラ♡ 社会的な問題提起にまで踏み込むまじめで硬派な内容なのに、ボリウッドお約束の群舞シーンやしつこいほどの歌やギャグも満載で、娯楽作の雰囲気も忘れていない。
♤ 冒頭の短い時間のなかで、主人公ラクシュミがガンジス川沿いの地方都市の町工場で働いていて、優秀な加工技術を持っているだけでなく発明の才覚があることを要領よく見せている。そして妻ガヤトリと結婚することで生理が「穢れ」とされていて、そのあいだは家事ができず夜も家の外で寝なければならないということに不合理を感じるようになる。生理が一般にタブーとされていたことは、ラクシュミは母親と妹たちと一緒に暮らしていたのに結婚するまで意識していなかったということからも窺える。
♡ ラクシュミは若くて愛らしいガヤトリにベタ惚れで、玉ねぎカッターや自転車の後部シートなど、彼女に困りごとがあるとみるや持ち前の器用さで即座に解決していく。これがナプキン開発への伏線となっていくのやけど、2000年代に入ってもなお、インドの田舎ではこんな状況なのかということに驚かされる。日本にも女性が相撲の土俵に上がれないなどの風習がないわけじゃないけど、日常生活で不浄視されることはないし、高機能で安価なナプキンが容易に手に入るのが当たり前やから・・・。
♤ 2001年当時、インドで手に入る生理用ナプキンは輸入品で高価すぎるため普及率は10%以下。不衛生な布で処理する妻の健康を心配したところから、ラクシュミの廉価版ナプキン開発の努力が始まる。といっても簡単に成功したわけではなく、失敗の連続。そのたびに周囲の人たちや家族からも白い目で見られ、夫の没頭ぶりを恥と感じる妻からも愛想を尽かされる。失敗する場面はだいぶ誇張されていると感じたけど、それもインド映画らしさではあるな。
♡ 愛する妻のためとはいえ、男がこういうことに首を突っ込むことへの周囲の偏見もさることながら、女性たちの拒否反応の強さにも驚いた。ラクシュミは村の会議にまでかけられてしまう始末。近代化よりも因習を重視する人々を変えていくには、相当強い力が必要だと思わせる。
♤ 結局ラクシュミは、独力で完成度の高いナプキンを開発するというか外国製品を安価にコピーする方法を見つけることに成功する。でも根がエンジニアなので、製造機械を作ることはできても、製造販売の事業化の才覚はない。そこに現れるのがパリーという女性。村々を回ってラクシュミの機械を売り込むだけでなく、その機械を使っての生産と商品の販売を村の女性に任せることで女性のための雇用と現金収入を創るという離れ業をやってのける。このパリーという女性は重要な役柄で、とても魅力的に描かれていて、映画の終盤ではラクシュミに好意を見せるようなところもあるが、実在した人かどうかは不明。
♡ 彼女はMBAを取るほどの知性の持ち主で、いわば開かれた新しいインド人女性を代表する存在として描かれる。タブラ奏者でもあり、インドという国の古い伝統を愛しながら、社会が抱える問題も理解しているから、不条理を当然のこととして受け入れてきた女性たちの自立を草の根的に促すというアイディアが出てくる。ボリウッドお約束の群舞といったけど、これはラクシュミの結婚式と、彼の妹が初潮を迎えたお祝いの場面の2回。つまり女性が華やかに着飾り周囲からちやほやされるのは生涯でこの2回だけで、それ以外は全近代的な因習に縛られていることをほのめかしているわけで、うまい対比を見せてると思ったわ。
♤ 最後の国連での怪しい英語のスピーチは、脚色されていたとしてもとても印象的な内容でよかった。こういうテーマの作品は、国によっては映画館で観るのを気恥ずかしく感じたり、あるいはタブーを犯していると思われても不思議ではない。実際、クウェートとパキスタンでは上映禁止になっている。インド本国ではヒットしていて、内容が啓蒙的なことから政府の支援を受けて学校で上映することも考えられているという。
♡ 80年代にバングラデシュにグラミン銀行ってマイクロファイナンス機関ができたときのことを思い出したけど、ソーシャルビジネスという形で社会問題が発展的に解決していくには、国民への啓発も欠かせないものね。うまくいってほしいと思う。
予告編
スタッフ
監督 | R・バールキ |
脚本 | R・バールキ |
キャスト
アクシャイ・クマール | ラクシュミ |
ソーナム・カプール | パリー |
ラーディカー・アープテー | ガヤトリ |