レビュー

記者たち 衝撃と畏怖の真実(Shock and Awe)

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おすすめ度

Shock and Awe

キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

名匠ロブ・ライナーが、イラク戦争開戦の大義名分となった大量破壊兵器の存在に疑問を持ち、真実を追い続けた記者たちの奮闘を描く。2002年、サダム・フセイン政権打倒を掲げるジョージ・W・ブッシュ大統領は、「大量破壊兵器の保有」を理由にイラク侵攻に踏み切ることを宣言。国内の大手メディアが政府のお先棒を担いで報道を続けるなかで、地方新聞社へのニュース配信会社ナイト・リッダー社のワシントン支局記者ジョナサン・ランデーとウォーレン・ストロベルは大統領の発言に疑念を抱き、さまざまな情報源をたどっていく・・・。記者役にはウディ・ハレルソンとジェームズ・マースデン。ロブ・ライナー自身も編集長役として登場し、ジェシカ・ビール、ミラ・ジョボビッチ、トミー・リー・ジョーンズが共演。

 

言いたい放題

アイラ♡ イラク戦争の大義名分となった大量破壊兵器の存在に疑問を抱き、真実を追求する記者たちをめぐる実話もの。『スタンド・バイ・ミー』『ミザリー』『ア・フュー・グッドメン』などのロブ・ライナー監督・脚本作で、自らも編集長役で出演。内容的に『大統領の陰謀』を思い出してしまうけど、残念ながらあそこまでの名作感がないのは大物俳優を起用してないせい?

キット♤ いやひとえに、時の大統領を退任にまで追い込んだかどうかの違いやろな。つい最近観たばかりの『バイス』の後半1/3を別の視点から見たような作品。確実な証拠もないまま「大量破壊兵器を開発、保持している」という“言いがかり”をつけてイラク戦争を仕掛けたアメリカ政府の裏側を見せたのが『バイス』なら、本作は同じものを外部の報道メディアからの視点で見せている。

♡ G.W.ブッシュにチェイニー、ラムズフェルドなどの人物と、彼らが果たした役割は『バイス』で予習できたので分かりやすかったわね。

♤ 映画はドキュメンタリー映像を交えて快調なテンポで進んでいくので、事前の予備知識が無かったら付いていくのはしんどかったかもしれないな。舞台となるのは「ナイト リッダー」というニュース配信会社のワシントン支局。アメリカの新聞社は日本と違って全国紙はUSA Todayだけで、その他は全て地方紙。規模の小さな地方紙の取材力には限界があるので、ナイト・リッダーは取材して作った記事を傘下の複数の新聞社へ提供する会社だったようだ。

♡ 日本でいえば共同通信社や時事通信社みたいなもんやね。

♤ 2003年のイラク戦争の前後の出来事を描いてるけど、ナイト・リッダーは2006年に他社に買収されてその歴史を終えている。本作中でも、記者たちはワシントン・ポストやニューヨーク・タイムスに対してコンプレックス色の強いライバル心を持っているようやったから、メディアの序列という面では弱小やったんやろな。

♡ G.W.ブッシュは2002年の一般教書演説で、イラクが大量破壊兵器を保有してテロを支援していると糾弾し、翌年イラク戦争を開始。「衝撃と畏怖」作戦でアメリカはイラクを占領し、“悪の枢軸”の一角が崩壊したと喧伝。NYタイムズをはじめとする大手メディアも、揃ってこれを肯定する論調だった。でもこれに疑念を持つ「ナイト・リッダー」ワシントンD.C.支局の記者ジョナサン・ランデーとウォーレン・ストロベルは、真実に迫る情報源をたどっていく・・・という物語。筋書きにはどうしても既視感が残ってしまうけど、ここで語られるのはアメリカが大切にしてきた正義感以外の何ものでもない。

♤ 『バイス』には、自分の都合で事実を捻じ曲げてイラク戦争へと走り、結果としてイラク国民、アメリカ軍兵士にそのツケを払わせることになったアメリカ政府とその関係者に対する批判が根底にある。本作にはそれに加えて、アメリカ政府のフェイク発表をそのまま真に受けて裏も取らずに報道したニュースメディアに対する痛烈な批判、さらにその報道を真に受けた我々一般人への警鐘が込められている。たしかに、当時は日本のニュースを見聞きしてサダム・フセインは大量破壊兵器を持っているのだろうくらいに思っていたので、改めてメディアの影響力は強大で、恐ろしいものやと思う。

♡ 主演は『スリー・ビルボード』のウディ・ハレルソンと、『X-メン』のジェームズ・マースデン。深海魚みたいな風貌のウディ・ハレルソンは、これまで危ないおっさんの役が多かったけど、『スリー・ビルボード』あたりから実直で熱いおっさんのイメージが定着。今後はシリアスものへの登場も増えていきそうな気がするね。あと、ウディ・ハレルソン演じるジョナサンの、ユーゴスラビア出身の妻役に『バイオハザード』のミラ・ジョボビッチ。出番は少ないながら、政治に翻弄された国出身の芯の強い女性の役を好演してた。

♤ オリジナル版のポスターには、編集長役で本作の監督・脚本も兼ねているロブ・ライナー、伝説の記者としてええとこどりしたトミー・リー・ジョーンズとの4人が並んでいる。ゲスト的なトミー・リー・ジョーンズはさておき、存在感があったのはロブ・ライナーやな。

♡ ああいう人が上司やったらええなというタイプの魅力的なキャラクター。ジャーナリズムとは何か、ジャーナリストとは何かということについての彼の語る言葉には重みがある。にも関わらず、ドラマは何の落とし前もつけずに終わってしまう・・・。事実やからしょうがないけど、ここに『大統領の陰謀』との違いが出てしまう。

♤ 事実に基づいた映画の宿命で、ニクソンを辞職に追いやるのと、大量破壊兵器が見つからなくても任期を全うしたブッシュとの違いで、インパクトという点で前者に及ばないのは致し方ない。アメリカ映画には大作ではないが、社会的正義をテーマにした程々のサイズの映画が伝統的に作られ続けている。この映画も人気リストには入らなくても、記憶に残っていく映画かなと思う。

 

予告編

スタッフ

監督 ロブ・ライナー
脚本 ジョーイ・ハートストーン

キャスト

ウディ・ハレルソン ジョナサン・ランデー
ジェームズ・マースデン ウォーレン・ストロベル
ロブ・ライナー ジョン・ウォルコット
ジェシカ・ビール リサ
ミラ・ジョボビッチ ヴラトカ・ランデー
トミー・リー・ジョーンズ ジョー・ギャロウェイ
ルーク・テニー アダム・グリーン

 

レクタングル336

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