レビュー

シェイプ・オブ・ウォーター(The Shape of Water)

投稿日:2018年3月20日 更新日:

おすすめ度

The Shape of Waterキット ♤ 4.5 ★★★★☆ 
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

2017年ベネチア国際映画祭の金獅子賞に続き、2018年アカデミー賞の作品賞ほか4部門の受賞作となったファンタジックラブストーリー。『パンズ・ラビリンス』のギレルモ・デル・トロが監督・脚本・製作作品。1962年、冷戦下のアメリカで政府の極秘研究機関の清掃員として働く女性イライザは、アマゾンで神のように崇拝されていたという不思議な生物が運び込まれたのを目撃する。その生物に心を奪われたイライザは、隠れて彼に会いに行くうちに互いの心を通わせていくが、やがて彼がある実験の材料になることを知る・・・。イライザには『ブルージャスミン』のサリー・ホーキンス。友人に『ドリーム』のオクタビア・スペンサー、『扉をたたく人』のリチャード・ジェンキンス。アカデミー賞では最多の13部門にノミネートされ、作品、監督、美術、音楽の4部門を受賞した。

 

言いたい放題

アイラ♡ 2018年の私的ベスト作品は『スリービルボード』で決定!と確信した直後に、いきなり信念が根こそぎ揺らいでしまったわ。といって、まったくジャンルの異なる作品なので、いまのところ同率首位ということで・・・。

キット♤ たしかに強力やったな。本年度アカデミー賞の作品賞、監督賞、作曲賞、美術賞の4つの賞を獲得。受賞こそ逃したけど、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞、録音賞、撮影賞、衣装デザイン賞、編集賞にもノミネートされた。ということは、俳優、脚本、撮影、音楽、美術・衣装、編集、どこをとっても死角のない出来ってことで、実際に観ても作品賞と監督署受賞に値する作品と納得する。

♡ 強いてジャンル分けするなら怪獣SFもの。でもホラーやスリラーの側面もあれば、ややアダルト風味のファンタジックなラブロマンスでもあるし、一部ミュージカルの要素もある。では何でもありの詰め込み映画なのかというと、どの側面をとっても水準が高くて驚かされる。

♤ うん。全方位的にバランスの取れた作品であると同時に、細かなところまでよく考えられた映画だと思う。半魚人のような生物は少々気持ち悪いけど、その気持ち悪さを目をそむけたくなる手前に抑えている。これが、その後の観客に半魚人に対する同情と共感のようなものが生まれるのを阻害しないだけでなく、主演のイライザ(サリー・ホーキンス)が半魚人に愛情を抱いていくのを無理なく納得させる前提になっている。

♡ う~ん、気持ち悪いかもしれないけど、全身のフォルムはむしろギリシャ彫刻みたいにがっしりしてカッコよかったよ。ギレルモ・デル・トロ監督って、子どものころから『ウルトラマン』やら『鉄人28号』など日本のテレビ番組にむちゃくちゃ影響されてたそうで、要はとてもオタクなメキシコのおっちゃん。本作に出てくる極秘研究機関の様子なんかにもごく初期の日本のテレビSF番組と相通じる空気があった。こういう傾向の作品がアメリカの映画賞で絶賛されるのやから面白いよね。

♤ 俳優たちの演技力もいいしな。アカデミー主演女優賞は『スリー・ビルボード』のフランシス・マクドーマンドが強力すぎて納得の受賞やったけど、サリー・ホーキンスが取ってもおかしくなかった。

♡ 子供時代に怪我をさせられ声を失った主人公のイライザが、最初は半魚人を救いたい一心から、やがてそこに好意がめばえ、ついには生涯の恋に身を任せていく・・・って役をすてきに演じてたね。友人で画家のジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)はゲイ、職場の同僚ゼルダ(オクタビア・スペンサー)は黒人。この時代のアメリカでは社会のはみ出し者だったであろう人々が彼女に優しく接するさまがとてもよくて、主演女優を美しく守り立ててた。

♤ イライザの声帯を傷つけたという3本の傷跡が、喉元ではなく首の側面にあるのが変やなと思っていたら、これがラストシーンで効いてくる。

♡ あの傷が一瞬ふっと形を変えるのやけど、どれだけの人が気づいたことやろね。これで、2人は遠いところへ逃げのびて幸せになれると確信する素敵な瞬間でもある。

♤ あら捜しをしても穴がみつからない作品で、逆に褒めるには事欠かないんやけど、個人的に好きなのは映像。舞台は1960年代で、イライザの住むアパートのレトロな感じや、勤め先の宇宙センターの施設や廊下の薄汚れた感じなど、CGではなく丁寧にセットを作って光の当て方を考えて撮影しているように思う。

♡ そうそう。敵役となる軍人のストリックランドの自宅はミッドセンチュリー風の家具で埋め尽くされ、奥さんも60年代のキュートなファッション。ラストの水中の場面も美しくて、細かいところまでまったく見飽きなかった。

♤ ところで、タイトルの『シェイプ・オブ・ウォーター』の意味を考えてみたんやけど・・・。

♡ ときめく彼女の心を象徴するかのように、バスの窓についた水滴が踊りながら形を変えていく、あのあたりから来てるのかなと思ったけど。

♤ 監督自ら語っているビデオがあったので、答えはこちらへ↓

予告編

スタッフ

監督 ギレルモ・デル・トロ
製作 ギレルモ・デル・トロ
J・マイルズ・デイル
脚本 ギレルモ・デル・トロ
バネッサ・テイラー
撮影 ダン・ローストセン
美術 ポール・オースタベリー
衣装 ルイス・セケイラ
音楽 アレクサンドル・デスプラ
視覚効果監修 デニス・ベラルディ

キャスト

サリー・ホーキンス イライザ
マイケル・シャノン ストリックランド
リチャード・ジェンキンス ジャイルズ
ダグ・ジョーンズ 不思議な生きもの
マイケル・スタールバーグ ホフステトラー博士
オクタビア・スペンサー ゼルダ

レクタングル336

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