レビュー

リメンバー・ミー(Coco)

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coco

キット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

『トイ・ストーリー3』でアカデミー賞を受賞したリー・アンクリッチ監督が、メキシコの「死者の日」のお祭りを舞台に家族の絆の大切さを描くピクサー・アニメーション作品。第90回アカデミー賞では長編アニメーション賞および主題歌賞を受賞した。音楽の才能に恵まれた少年ミゲルは、音楽を禁じる一家に育つが、ある日伝説のミュージシャン、デラクルスの墓所に飾られていたギターを手にしたとたん、先祖たちが楽しく暮らす死者の国へ迷いこんでしまう。ミゲルはそこで現世に戻れない孤独なガイコツ男のヘクターと出会う。物語の鍵ともなる劇中歌「リメンバー・ミー」は、『アナと雪の女王』の「レット・イット・ゴー ありのままで」を手がけたクリステン・アンダーソン=ロペス&ロバート・ロペス夫妻の作。

 

言いたい放題

 キット♤ いまどきのアニメ映画はなかなか質が高くて、昨年は『SING シング』『モアナと伝説の海』『カーズ クロスロード』『KUBO クボ 二本の弦の秘密』の4本を劇場で観たけど、どれも良い出来で楽しめた。アニメと実写映画は、質感の表現やリアルな動きなどの点で互いに限界があり、長年棲み分けがあったけど、CG/VFXの技術の進歩によって境界が曖昧になってきた。強いていえば、アニメではキャラクターの顔や体型にアニメらしさを残しつつ、背景や静物、衣服や毛髪なんかの質感は実写と変わらない水準。本作でも、たとえば服が風でたなびく動きまでも自然な感じで違和感がない。逆に犬なんてゴムみたいにふにゃふにゃの質感やけど、手で押したらどれほどの弾力があるか想像できそうなくらい。

アイラ♡ 最近いったいどれだけ観てるかしれないディズニー作品!ってわけやけど、これは『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』などと同じくピクサー・アニメーション・スタジオの制作。技術の高さもさることながら、ピクサーの手がけてくる作品はいずれも心温まるテーマを持ってるのよね。今回は、メキシコのお盆とでもいうのか、亡くなった先祖たちが帰ってくる”死者の日”という祭日をめぐる物語。ご先祖たちをいつも忘れずに・・・というメッセージは、日本人にはわりとすんなり入ってくる。

♤ 『ブラックパンサー』で黒人層に取り入ったディズニーは、今度はヒスパニック層を狙うという世界征服戦略を描いてるともいえて、実際にメキシコでは歴代最高の興行成績を上げたらしいで。

♡ メキシコの習俗をうまく描きながら、テーマとする家族の絆について語っていくやり方は上手。しかも映像美には圧倒的なものがあって、カラフルな色彩にあふれる死者の世界はまるで夢の国。“死者の日”に、ご先祖さまたちはマリーゴールドの花びらが敷き詰められた橋を渡ってこちらの世界に帰ってくるんやけど、三途の川やらお盆の迎え火を思わせて面白い。

♤ 冒頭で主人公が一家の歴史を語る場面では、メキシコの切り絵「パペルピカド」のアニメーションを紙芝居的にうまく使っているし、死者の国に登場する極彩色の動物は、アレブリヘスという全身に点描をまとった民芸品の木彫人形がモチーフ。”死者の日”の起源はメキシコ先住民族の風習で、それが後から入ってきたカトリックと習合したらしい。映画の中ではキリスト教色はまったくなかったので、ひょっとするとアジア圏でのマーケティングを考えてのことかなとも思った。

♡ 主人公のミゲルの一家は、音楽のために家族を捨てた高祖父(曽祖父の父)を憎んで音楽を禁じているけど、ミゲルは大の音楽好き。伝説の歌手デラクルスの墓所に忍び込み遺品のギターに触れたとたん、死者の国に迷い込んでしまう。ご先祖さまたちと会えるものの、夜明けまでに戻らないと帰れなくなってしまうミゲル。現世の家族に忘れられかけているガイコツ男のヘクターとともに、互いの目的達成のために頑張るというお話。

♤ 本作の肝になるのは、「現世の祭壇に写真が祀られていない死者は現世に帰れない」「死者のことを覚えている家族が現世でいなくなれば、死者は本当の死を迎えて消滅する」というルール。これが物語に大きく関わってくるのやけど、こういう設定はうまいな。死者の国では死者たちが普通に暮らしていて、現世と死後の世界を分ける「死」が深刻なものという感じが一切無いのも面白い。そして、ラストでは死者を含めた家族の大切さというメインテーマへと立ち戻る。

♡ 仏教なら、成仏したであろう先祖たちをあんなに俗物感たっぷりに描くことはしないやろね(笑) 劇中使われる数々の歌も楽しく、死者の国での一番のセレブが画家のフリーダ・カーロというご愛嬌もある。途中で物語の帰結は想像できてくるし、だいたいその通りのエンディングにもなるのやけど、わかっていても泣けてしまう温かなラスト。大人も子どもも楽しめるでしょうね。

♤ 原題『Coco』はミゲルの曾祖母の名前。邦題の『リメンバー・ミー』は主題曲のタイトルやけど、本作に関しては珍しく邦題の方がテーマにぴったりくる。

♡ 『アナと雪の女王』の主題曲「レット・イット・ゴー」と同じくロペス夫妻の新曲ということなんやけど、アカデミー賞授賞式では、ガイコツ男ヘクターの吹き替えをした俳優のガエル・ガルシア・ベルナルがこの曲を生で歌ってびっくり。それがあまりに下手くそで、映画では別の歌手が歌ってたことがわかってしまった・・・。

♤ ところで劇場公開では、『アナと雪の女王』のスピンオフ短編『アナと雪の女王/家族の思い出(Olaf’s Frozen Adventure)』が同時上映されてた。22分とおまけにしては長いけど、クリスマスシーズン用の内容で季節外れの感あり。子どもたちにはウケるやろけどね。

 

予告編

スタッフ

監督 リー・アンクリッチ
脚本 エイドリアン・モリーナ
マシュー・オルドリッチ

キャスト

アンソニー・ゴンサレス ミゲル
ガエル・ガルシア・ベルナル ヘクター
ベンジャミン・ブラット エルネスト・デラクルス
アランナ・ウバック イメルダ
レニー・ビクター エレナ
ジェイミー・カミル パパ
アナ・オフェリア・ムルギア ココ
ナタリア・コルドバ=バックリー フリーダ・カーロ
ソフィア・エスピノーサ ママ

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