レビュー

人生はシネマティック!(Their Finest)

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Their Finest

キット ♤ 3.5 ★★★☆
アイラ ♡ 3.5 ★★★☆

第2次世界大戦のさなか、イギリス政府による国威発揚映画の製作に取り組んだ人々を描く。舞台は1940年のロンドン。コピーライターの秘書として働いていたカトリンは、人手不足を埋めるために書いたコピーが評価され、ダンケルクでの救出に加わった姉妹の物語を映画化する脚本チームに抜擢。さまざまなトラブルを超えて映画製作は大詰めを迎えるが、カトリンの人生にも過酷な運命が・・・。主人公カトリンには『007 慰めの報酬』のジェマ・アータートン。『ハンガー・ゲーム』のサム・クラフリンや、『ラブ・アクチュアリー』『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』のビル・ナイらが脇を固める。監督は『17歳の肖像』『ワン・デイ 23年のラブストーリー』のロネ・シェルフィグ。

 

言いたい放題

アイラ♡ 先日公開された『ダンケルク』の時代を別の視点から描いたBBC制作の佳作。シナリオライターである一人の女性の物語と、第二次大戦中のプロパガンダ映画制作の舞台裏という2つの要素が柱になっている。私としては、後者の部分が圧倒的に面白かった作品。

キット♤ 主人公は、イギリスがドイツの空襲を受けていた時期に国威高揚のための映画を制作していた人たち。ロンドンが空爆やロケット弾の攻撃を受けたことは知ってたけど、その被害の規模までは知識がなかったので、中心部が空襲で大きな被害を受けたり、地下鉄が防空壕になっていたりする場面をみて攻撃の激しさを改めて知った。Wikipediaによると、空襲で13,000人以上の民間人が亡くなり、その半分がロンドン市民だったという。

♡ 主役のカトリンは、ロンドンでコピーライターの秘書として働いていたところ、たまたま彼女が書いたものが政府情報省映画局の上層部の目にとまり、招集で人手不足になっていたプロパガンダ映画制作の脚本チームの一員となって能力を発揮していく。

♤ その国威高揚映画というのが、ダンケルクに取り残された将兵をイギリスの民間人が船を出して救出した史実に基づく物語というわけ。イギリス人にとっては「ダンケルク」が何かを説明する必要がないくらい誰でもが知っている歴史ってことなんやな。

♡ 本作は2016年制作なので、おそらくはノーラン・ライアン監督の『ダンケルク』の成功を受けての日本公開やったのでしょう。本作では、政府が英仏兵の救出にかけつけた姉妹の感動秘話をプロパガンダに利用しようとするのやけど、シナリオが作られていく過程、主演俳優のわがままぶり、政府や軍部からの横ヤリなど、映画づくりの裏話がぽんぽんと出てきてなかなかおもしろかった。

♤ 当時の戦況からいって、イギリスにはアメリカをヨーロッパ戦線へ引き込みたいという意図があったから、この劇中映画には単なる国威発揚だけでなく、対米という視点を盛り込む必要があった。そのためにアメリカ人の素人役者が押し付けられるんやけど、それがとんでもない大根。彼をカバーするための工夫とか、コメディの要素もテンポよく盛り込まれている。

♡ 撮影現場の様子も興味深かったわね。いまならCGで迫力いっぱいに撮れる水中シーンも、スタジオに作ったちゃちなプールで撮ってたり、ダンケルクの海岸の光景もガラスに描いた絵との合成だったり・・・。ただ、これをカトリンの物語として観ると、展開がご都合主義っぽくて私としてはちょっといただけなかった。

♤ ジェマ・アータートンって、ボンドガールもやってたらしいけどあまり知らない役者。けど、素人からスタートしてプロフェッショナルな脚本家になっていくところを良く演じてたと思うで。画家志望で経済力のない夫を支えるために働かなくてはならない身で、なにかの折にふっと疲れた表情を見せるところがよかったで。相手のトム役のサム・クラフリンは、その点で悪くはないけどやや影が薄い。

♡ 画家の仕事が軌道に乗り始めた夫の不倫、うまくいきかけた恋の突然の破綻など、カトリンにはたたみかけるように不幸が訪れるのやけど、それを受け止めるカトリンの淡々とした表情にちょっと違和感が。いつ命を落とすかわからない戦時に厳しい運命に翻弄されつつ、でも前に進むというヒロイン像がもう少し描き込まれてたらな・・・。

♤ 持ち味を一番発揮していたのは言うまでもなくビル・ナイやな。役柄は盛りを過ぎた名俳優というところで、劇中劇に出演を要請されるのは途中で死んでしまう端役。ところが制作過程で軍や当局から横ヤリが入ったりして脚本に手が加えられる毎に少しずつ目立つ役になっていき、撮影する時にはヒロイックな主要人物にまで成り上がり、本人もご満悦。

♡ イギリス映画らしい皮肉たっぷりのセリフも、彼を通すとさらに磨きがかかっていいよね。

♤ アメリカ映画でコメディタッチのロマンス物を作ろうとすれば、主役の2人の気持ちが行き違ったあと、ラストでよりを戻してハッピーエンドとなるところ。ところがイギリス映画だと、最後にもう一捻り入れて違う結末にしてしまう。この脚本に、ビル・ナイなどの英国紳士風のフレーバーが加わってアメリカ映画とは一線を画すものになってる。

♡ カトリンが公開された作品をようやく観る気になったとき、劇中映画に彼女とトムが岸壁で戯れていた遠景ショットが挟まれていたでしょ。新聞紙にくるんだチップスを海中に投げ捨てるところ。あの場面は実にしゃれてたなぁ。

♤ 原作は『Their Finest Hour and a Half』という小説。映画化にあたって、これを『Their Finest』というタイトルにしたのは、出演者が輝いていた1時間半の映画だけでなく、戦時中ドイツの攻撃に晒されながらも精一杯生きた人たちへのノスタルジックな思いと敬意が込められているのかなと思った。そう考えると、この邦題はちょっと軽すぎるな。

 

予告編

スタッフ

監督 ロネ・シェルフィグ
原作 リッサ・エバンス
脚本 ギャビー・チャッペ

 

キャスト

ジェマ・アータートン カトリン・コール
サム・クラフリン トム・バックリー
ビル・ナイアンブ ローズ・ヒリアード
ジャック・ヒューストン エリス・コール
ヘレン・マックロリー ソフィー・スミス
ポール・リッター レイモンド・パーフィット
レイチェル・スターリング フィル・ムーア
リチャード・E・グラント ロジャー・スウェイン
エディ・マーサン サミー・スミス
ジェレミー・アイアンズ 陸軍長官
ジェイク・レイシー カート・ランドベック

 

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