レビュー

ベイビー・ドライバー(Baby Driver)

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ベイビー・ドライバーのポスターキット ♤ 4.5 ★★★★☆ 
アイラ ♡ 4.5 ★★★★☆

子どものころの事故の後遺症で聴覚に障害を持つベイビー。iPodで音楽を聴くことで集中力が高まり、驚異的なドラインビングテクニックを発揮する彼は、強奪犯の逃走を手助けする“逃がし屋”でカネを稼いでいる。愛する女性と出会ったのを機に、稼業から足を洗うと決めたベイビーだったが、その能力を惜しむ犯罪組織の大物に脅され、否応なく次なる犯罪へと巻き込まれていく・・・。手に汗握るカーチェイスや銀行強盗の場面は、ベイビーのiPodに収められた新旧さまざまな音楽と完全にシンクロ。いままでにない新味にあふれた場面づくりを手がけたのは、『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』などのエドガー・ライト監督。ベイビーには『きっと、星のせいじゃない。』のアンセル・エルゴート。ケビン・スペイシーやジェイミー・フォックスなどのベテランが豪華に脇を固め、実在ミュージシャンらのカメオ出演も楽しみ。

 

言いたい放題

アイラ♡ うわ~い!後半の娯楽映画部門のナンバー1は恐らくこれで決まり! なんやのこの完成度の高さ! 最初から最後まで一瞬たりとも飽きることがなかったわね。

キット♤ 監督のエドガー・ライトはイギリス人で、これまでは『アントマン』の脚本を除くと、『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』などメインストリームを外れた作品ばかりで、あえて観に行こうと思わないというか、実際観ていない。本作も前評判は高かったけど、それほど期待せずに行ったら、これが大当たり。

♡ シーンと完全シンクロするBGMは、音楽にあてて画面を編集したというし、ふんだんに盛り込まれるカーチェイスやドンパチの場面も切り口がすごく新しい。コインランドリーの場面は色彩の渦。新旧の音楽が山のように使われるけど、これが微妙に王道をはずした選曲。なんというか、恐ろしいほどのセンスの冴えを感じたわ。

♤ 観るべきポイントは数々あると思うけど、まずはやはりカーチェイス。冒頭、銀行へ乗り付けて計画通り金を奪って手際よく逃げ、パトカーとカーチェイスを繰り広げなたら逃走するという約5分間のスピード感あふれるシーンで観客をぐいっと引き込む。この間「ベルボトムス」という曲が場の緊張を盛り上げる。後半のカーチェイスでは、映像はもちろん、タイヤのきしむ音やパトカーのサイレンなどのノイズまでも音楽とシンクロして予期せぬ一体感を作っている。
ちなみに、このカーアクションで使われているのはスバルのWRX。フルタイム4WDだが、撮影用に用意されたうち数台は後輪駆動に改造されたものとか。バックからスピンターンするところとか、クルマ好きにはたまらん見せ場が多い。

♡ 逃走場面では、その赤いスバルを3台並走させて追っ手の目を欺くのやけど、この赤の使い方も絶妙。監督は長年関わってきた『アントマン』の監督から降りて、大手スタジオの縛りなしに本当に撮りたいものを撮ったということなので、これからが楽しみな人やね。

♤ で、音楽はベイビーの旧型iPodで再生されてイヤフォンから聞こえているものがそのままBGMとなっている。これも実に新鮮。

♡ iPodで音楽を聴きながら街を歩いているときの、まさにあの感覚なのよね。それをうまく映画に取り込んでる。その音楽も、なんとも微妙な線で選んでるという洋楽好き泣かせ。強盗の事前打ち合わせ(?)時にコーヒーを買いに行くのがベイビーの仕事のひとつやねんけど、そのときは「ハーレム・シャッフル」を聴きながら街でリズミカルにステップを踏む、ちょっとミュージカルっぽいの。それもストーンズではなく、ソウルデュオのボブ&アールのバージョン。ベイビーのテンションをマックスにするキラーチューンは、クィーンの「ブライトン・ロック」ということやけど、彼らのNo.1ヒットではないところを持ってくるのがニクい。別の強盗シーンでは、オランダのプログレバンド、フォーカスの「ホーカス・ポーカス」をコミカルに使うし、もう参った参った。音楽使いのうまさでは、クエンティン・タランティーノとマーティン・スコセッシが現代随一と思うけど、彼らを意識しているというライト監督もどうしてどうして。

♤ 武器を調達に行って銃撃戦になるシーンには「テキーラ」を使ってて、ドラムスのビートと拳銃の発砲音が重なるという手の込みよう、というかBGMをすでに超越してる。ジェイミー・フォックスの咆哮も決まってる。選曲ジャンルもロック、ソウル、ジャズと幅広く、エンドロールでは満を持してサイモンとガーファンクルの「ベイビー・ドライバー」がかかる。

♡ これとて、記憶の限りではシングル盤の「ボクサー」のB面曲というマニアックさやからねぇ。

♤ とはいえ作品自体はクライム・サスペンス、ラブ・ストーリー、カーアクションを上手にミックスした作りで娯楽映画としての完成度は高い。

♡ 青春映画としても映画史に刻まれていい内容だと思うよ。最後はもうベイビーの未来の夢はすべて断たれたかと思ったら、小粋なエンディングが待っているし。

♤ あと、何といってもキャスティングがよい。主演のアンセル・エルゴートにとって、ベイビーははまり役。まだ23歳でこれまでの出演作も少ないので、これからどうなるやろね。相手役のリリー・ジェームズはTVドラマ『ダウントン・アビー』のローズ役でブレイクして『シンデレラ』で抜擢された有望株。『高慢と偏見』のパロディ映画『高慢と偏見とゾンビ』にも主演するなど、ちょっと変なところもあるしな。これを踏み台に、さらに良い役をつかめばハリウッドでの成功も夢ではなさそうに思う。

♡ 目を引いたのはバディ役のジョン・ハムやね。彼もTVドラマ出身で、『MAD MEN マッドメン』のドン・ドレイパー役でブレイクした人。見た目がしゅっとしてるし、独特のノワールな感じをたたえた稀有な俳優。働き盛りの40代半ばなので、これからもっと大きな作品で売れてほしいわ。

♤ 本作では、ベイビーの良き理解者だったのが、あることを堺に執拗な追跡者になる2面性を持った役で存在感を見せたな。あとバッツ役のジェイミー・フォックスは、ちょっとサイコがかった役を楽しみながら演っていて余裕。彼が存在するだけで、場に緊張感やダークな感じが漂って作品が引き締まる。あと、忘れてはならないケビン・スペイシー。最近はとんとスクリーンでみなかったけど、Netflixのオリジナルドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』で大統領に上りつめる悪徳政治家を怪演。あの悪辣で独善的なイメージそのままに裏社会の元締めを演じてる。

♡ カメオ出演もなかなか豪華で、監督のウォルター・ヒル、ラッパーのビッグ・ボーイとキラー・マイク、ロックミュージシャンのジョン・スペンサーなど。ベイビーの母親には歌手のスカイ・フェレイラ。そしてびっくりしたのは、シンガーソングライターのポール・ウィリアムズや、レッチリのフリーがセリフのある役で出てくること。まさか~?と思ったら本物やった(汗)

♤ ストーリー、映像、音楽、カーアクション、そしてキャスティング、それぞれのレベルが高く、かつ全体として文句のつけどころがないほど完成度が高い。終了後、一部で拍手が起きてたな。

♡ 日本でもマスコミ試写は連日満席という人気ぶりやったというのに、上映館数が異様に少ないのは何ゆえかしらね。ややマニアックすぎるので一般受けは難しいと踏んだのか・・・。新宿の劇場は初日から長蛇の列やったから拡大上映もあるかもしれないけど、私としてはもう一度観てもいいくらい

 

予告編

 

スタッフ

監督 エドガー・ライト
製作 ナイラ・パーク
ティム・ビーバン
エリック・フェルナー
製作総指揮 エドガー・ライト
脚本 エドガー・ライト
撮影 ビル・ポープ
音楽 スティーブン・プライス

 

キャスト

ベイビー アンセル・エルゴート
デボラ リリー・ジェームズ
ドク ケビン・スペイシー
バッツ ジェイミー・フォックス
バディ ジョン・ハム
ダーリン エイザ・ゴンザレス
ブッチャー ポール・ウィリアムズ

 

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