おすすめ度
キット ♤ 3.0 ★★★
アイラ ♡ 3.0 ★★★
後期印象派の画家として20世紀の抽象絵画に大きな影響を与えたポール・セザンヌと、『居酒屋』などで知られる文豪エミール・ゾラの40年にわたる交友を描く。少年時代、南仏エクス・アン・プロヴァンスで出会った2人は全く異なる境遇に生まれ育ちながら、ともに芸術を志す者として成長する。やがてパリに出たゾラは人気小説家として世俗的な成功を収めるが、セザンヌの作品はなかなか日の目を見ず、生活も次第にすさんでいく。そんな折、ある画家をモデルとするゾラの小説がもとになり2人はついに決裂してしまう。『モンテーニュ通りのカフェ』のダニエル・トンプソン監督。セザンヌ役に『不機嫌なママにメルシィ!』のギョーム・ガリエンヌ、ゾラ役に『世界でいちばん不運で幸せな私』のギョーム・カネ。
言いたい放題
キット♤ フランスの画家ポール・セザンヌと小説家エミール・ゾラ。2人の名前は知っていたが、彼らが1歳違いで同じ町で育った幼馴染であることを含めてどういう生涯だったのかまでは知らなかった。観る前にWikipediaを斜め読みして、ざっくりと予備知識を仕込んでおいたのが観賞の役に立ったけど。
アイラ♡ 観る側に最低限の知識がないと、ほとんど背景説明のないままセリフ劇が続くので理解に困ってしまう。作る側もそれを想定してるのでしょうけれど。私はゾラの作品って読んでなかったので、ちゃんと読んでおくんやったと反省。
♤ 少年時代、20歳過ぎ、30歳前後、40代~60歳あたりと異なる時代の出来事を前後して進んでいく構成やけど、彼ら2人の間の友情や絶交に至る背景やいろんなエピソードはWikipediaにもかなり書かれていて、そのあたり忠実に描いている。もちろん、映画はWikipedia以上のもので、特にセザンヌとゾラの性格、人格にまで踏み込んで描いてる。当然、想像を交えた創作が加わっているものと思うけど。
♡ 後年落ちぶれてしまうセザンヌは、裕福な銀行家の息子。世俗的な名声を得ていくゾラは、イタリア移民のいじめられっ子。そんなゾラをセザンヌが助けたことから友情が始まり、いじめっ子から救ったお礼として、ゾラの母親がひとかごのリンゴを持たせるのやけど、それはやがてセザンヌとは切っても切り離せない絵のモチーフになっていく。赤いリンゴの実をちらりと見せる演出はなかなか心憎いと思ったな。舞台となる南仏の赤い大地と強い太陽光線も、初めて見る者には意外なほどの美しさやったわ。
♤ 史実として、セザンヌは当初印象派の一員だったのが後年はそれとは別行動を取り、独自の世界を作っていく。これは印象派が台頭して画壇を独占していく流れに乗り損ねたのかもしれないし、乗りたくなかったのかもしれない。映画で描かれるセザンヌのひねくれた性格は、画家としての名声を掴み損ねた結果の性格かもしれないし、逆にその性格が成功を阻んだのかもしれない。
♡ 後に彼の考え方や表現は、ピカソやブラックなど20世紀初頭のキュビズムの画家たちに受け継がれていくので、少し早く生まれすぎたのかもしれないね。ラスト近く、すでに決裂していた2人やけど、ゾラが帰ってきたと聞いていそいそと山から降りてきたセザンヌに気づかず、彼への冷たい言葉を発するゾラ。それに背を向けてそっと立ち去るセザンヌ。監督の想像の世界とはいえ、もう元には戻れない2人の距離を感じさせる演出やった。
♤ セザンヌは父親が裕福で、仕送りや父の遺産という土台があったから、周囲に迎合せずに生きていけたともいえるのに対し、ゾラは売れる作品を書かねばならず、それが作家としての成功に繋がったと匂わせるくだりがある。映画はそういった諸々のことを逐一説明するではなく観る側に想像させるような作りで、これは悪くない。もう一度観るとまた違った風に見えるかもしれないとも思う。
♡ 作家ではモーパッサン、画家ではマネやモリゾなど、19世紀末のパリを彩った芸術家たちの名前が次々と出てくるし、当時の文壇や画壇といったところで、けっこう世俗的な世界らしいことも匂わされてたね。セザンヌといえば、生涯描き続けた故郷のサント・ヴィクトワール山が有名やけど、エンドロールには彼の描いた山の絵が現れては消えていく。派手さはないけど、じっくり味うのによい佳作でした。
♤ 2人とも歴史に名を残した人物やけど、生きているうちに成功したゾラは数ある作家の一人に過ぎないのに対して、死んでから評価されるようになったセザンヌがその後に大きな影響を残した画家として認められている現実のその背景を垣間見ることができたのは面白かった。
予告編
スタッフ
監督 | ダニエル・トンプソン |
脚本 | ダニエル・トンプソン |
キャスト
ギョーム・ガリエンヌ | ポール・セザンヌ |
ギョーム・カネ | エミール・ゾラ |
アリス・ポル | アレクサンドリーヌ・ゾラ |
デボラ・フランソワ | オルタンス・セザンヌ |
フレイア・メーバー | ジャンヌ |
サビーヌ・アゼマ | アンヌ=エリザベート・セザンヌ |
イザベル・カンディエ | エミリー・ゾラ |
フレイア・メーバー | ジャンヌ |
ローラン・ストーケル | アンブロワーズ・ヴォラール |