レビュー

バリー・シール アメリカをはめた男(Barry Seal)

投稿日:2017年10月30日 更新日:

おすすめ度

Barry Seal

キット ♤ 2.5 ★★☆
アイラ ♡ 3.0 ★★★

CIAにスカウトされた民間旅客機の腕利きパイロットが、麻薬の運び屋としても暗躍していたという実話に基づく物語。主人公バリー・シールを演じるのはトム・クルーズ。CIAの接触を受け、偵察機のパイロットとして極秘作戦に加担することとなったバリーは、作戦の過程で伝説的な麻薬王パブロ・エスコバルらと接触し、麻薬の運び屋としても数々の危ない橋を渡る。ホワイトハウスやCIAの求めに応じて動く一方、違法な麻薬密輸ビジネスで荒稼ぎをするバリーだったが、脇の甘い彼の身近にまで恐ろしい危険が迫っていた。監督には『オール・ユー・ニード・イズ・キル』につづいてトム・クルーズと組むダグ・リーマン。

 

言いたい放題

キット♤ バーリー・シールという実在の人物は、もともとTWAの敏腕パイロット。CIAにその腕を買われ、CIAが介入する南米某国での偵察飛行や違法な武器の運搬などCIAの手先として働き、同時にメディシン・カルテルともつるんでアメリカへのコカイン密輸も行い、両方から莫大な金を稼いだという怪人物。

アイラ♡ このほとんどお調子者といっていい人間を、トム・クルーズが軽々と演じているのが面白い。全体に痛快感のある作りで、トム・クルーズが演るから悪さを働いてもどこか爽快で、憎めないキャラクターになってはいるけど、まぁやっぱりトム・クルーズを見るための映画かなぁ。

♤ バリーが堅気のパイロットから一転してCIAの手先となり、危ない任務をこなしつつ、次第に違法な稼業に手を染めていくるくだりと、それに連れてどんどんと儲かって羽振りが良くなっていくところをテンポよく描いている。この手の映画の例にもれず、絶頂期の後には転落が待っていて最後は気の毒な結末が待っているわけやけど。

♡ 素材としては面白いし、ストーリーもよく出来てたと思うよ。けどお祭りのように冒頭から盛り上がったきり一本調子で進んでしまうので、ただ賑やかなだけでメリハリが薄い。実際のバリーという人物も、後先を考えない、ほんとにこんな感じのいけいけドンドンなタイプやったのかもしれないけど。

♤ 副題に『アメリカをはめた男』とあるんやけど、これは違うな。バリーがアメリカ政府とメディシン・カルテルの両方を手玉に取る悪知恵の働く男のイメージを作ろうとしている風やけど、観てみるとバリーがCIAにはめられたとしか思えない。少なくともCIAに利用されて、最後は捨てられたのは間違いないわけで。

♡ 原題が『American Made』やものね。まさにあの時代のアメリカが産んだ怪人物であり、権力とお金に翻弄された挙句に歴史の陰に追いやられた人なのでしょう。トム・クルーズのなんだか明るいキャラを前面に出して、暗くも描けたテーマを軽いコメディのように扱ってるわけやけどね。

♤ うん。バリーが知恵の働く男だったかというと、決してそうは思えないし。10年間で50億ドルほど稼いだらしいけど、その金の使いみちどころか保管方法も分からず、無防備に銀行に預けたり、そこらに埋めたり、箱に入れて放置したままだったり。ロンダリングする知恵も才覚もなく、しかもCIAとメディシン・カルテルと関係を作ってしまったら、簡単には足抜けできないことくらい分かりそうなのに、その対策も考えた気配もなし。

♡ 危ないことをしている以上は、家族をきっちり守らねば意識もないしね。危機が迫ってから家族で夜逃げしようとする始末。行き当たりばったりすぎ。

♤ 結局は、複雑な国際情勢のなかで利用され、泳がされ、最後は消された気の毒な人ってことなんやろな。別の見方をすれば、バリーという人は根っからのパイロットで、スリルを味わいながら飛行機を操縦したいだけだったのかも知れない。でないと、地面に穴掘って埋めるほどのお金を稼いでたというのに、全然仕事から手を引こうとしなかったことの説明がつかない。

♡ ただ、80年代のアメリカの政治情勢に詳しくないともうひとつ楽しめないのが日本人にはちょっと残念なところ。

♤ メディシン・カルテル、ノリエガ、ノース、イラン・コントラなど、ニュースでは聞いたことがあるけど詳しいことはよく覚えてない名前がばんばん出てくる。でもCIA、FBI、DEA、ATFなどが総出演するシーンや、ホワイトハウスを訪問したバリーに、”優秀な”パイロットだったジョージ・W・ブッシュが声をかけるシーンなんかは面白く作ってる。まぁ実話に基づくといっても、肝心なところはCIAが隠蔽している可能性が高いし、多分に想像を交えた筋書きなのかもしれない。別にそれでも構わないけど、その割にはストーリーとしては平凡で、さほど面白いとは思わなかった。

♡ 実際にはかなりえげつない話であるわけで、アメリカ史の暗部を描いたものとしては、メディシン・カルテルのボスはじめ周辺の人物の設定が雑すぎ。結局はトム・クルーズを見せる娯楽映画と考えるのが落ち着くわね。

♤ 飛行機の操縦シーンは代役を使わずトム・クルーズが全部操縦したらしいね。スタントを使わないトム・クルーズらしいけど、まぁ飛行機を操縦するのが好きという点で、バリーとトムはつながっているのかもと思った。

♡ そういえば、最近すっかり劇場でその名をお見かけしなくなった戸田奈津子さんやけど、トム・クルーズものだけはしっかり押さえてはるね。

 

予告編

スタッフ

監督 ダグ・リーマン
脚本 ゲイリー・スピネッリ

 

キャスト

トム・クルーズ バリー・シール
ドーナル・グリーソン モンティ・シェイファー
サラ・ライト ルーシー・シール
ジェシー・プレモンス ダウニング保安官
ローラ・カーク ジュディ・ダウニング
ジェイマ・メイズ ダナ・シボタ

 

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