レビュー

ビール・ストリートの恋人たち(If Beale Street Could Talk)

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おすすめ度

If Beale Street Could Talk

キット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.5 ★★★★

『ムーンライト』で一昨年のアカデミー作品賞に輝いたバリー・ジェンキンス監督が、1970年代のニューヨークに生きる若い2人と彼らをとりまく人々を描いたドラマ。ドキュメンタリー映画『私はあなたのニグロではない』の原作者としても知られるジェームズ・ボールドウィンの小説『ビール・ストリートに口あらば』を原作に忠実にを映画化。試練にさらされつつ、家族や友人に支えられ、困難に立ち向かう主役の2人には、オーディションで抜てきされた新人キキ・レインと、『栄光のランナー 1936ベルリン』のステファン・ジェームス。深い愛をもって主人公ティッシュを支える母親を演じたレジーナ・キングが、本年度アカデミー賞で助演女優賞を受賞した。

 

言いたい放題

キット♤ ファニーとティッシュの若い黒人カップルのラブストーリーを思わせる日本語タイトル。もちろんそういう一面もあるが、いまなお人種差別の残るアメリカという国で、虐げられ、貧困にあえぐ黒人の視点で作られた映画。監督は『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス。原作は、小説家で公民権運動家でもあるジェイムズ・ボールドウィン。制作にはブラッド・ピットの「プランB」が前作に続き加わっている。

アイラ♡ 観終えたとたんに心が震えだし、早く言葉にしなくてはという思いに駆られる作品にごくたまに出会う。最近ではまさに本作がそんな映画。ロバータ・フラックの「やさしく歌って/Killing Me Softly」が流れる劇場予告は、苦難を乗り越える黒人カップルのラブロマンスだろうという程度の情報しか与えてくれなかったけれど、予想に反して骨太の社会派作品。この歌は何の関係もなかったのよね。そして前にそんな気持ちになった作品は・・・と思い返してみたら、同じ監督の『ムーンライト』やった。この人の作品とは感性がすごく合うみたい。

♤ 個人的には『ムーンライト』より本作のほうが観やすくてよかったけど、インパクトは前作の方が上やったかな。

♡ 『ムーンライト』は主人公の言葉が少なくて、そのかわり豊かな色彩にこだわっていたこともあって、美しい絵本のような作品やったわよね。視覚的に大好きなシーンもたくさんあった。本作でもバリー・ジェンキンズ監督は、ハードなテーマをごりごりとは描かず、練り上げられた美しい言葉や、鈍いながら計算し尽くされた色彩、格調高いBGMなどで、不条理に翻弄される人々の優しさや母の強さを描いて、素晴らしい作品に仕上げてたと思う。

♤ 1970年代のニューヨーク。ファニーは22歳、ティッシュは19歳。幼馴染みで自然に相手を思うようになり、子どもを授かった2人が一緒に暮らす家を探しはじめていた矢先、ファニーは身に覚えのない強姦の罪で逮捕されてしまう。食料品店での小さないざこざがもとで白人警官に目をつけられたのが原因らしい。物語は、そんな状況下でファニーの妊娠が双方の家族に知らされるところから始まる。新しい命を授かったのを祝福するティッシュの家族に対し、ファニーの家族は異様なほど狂信的な母親や、お高く止まった姉たちなど、非常に対照的。黒人社会といっても単純に一括りにできるものでもないという現実を見せられる。

♡ あそこまで狂信的にでもならなければ、自分たちの置かれる不条理に対してとうてい得心できないということなのかとも思ったわ。息子のことにしても、すべて神の意思であるとでも思わなければとうてい得心できない・・・とでもいうのか。

♤ 不当に収監されたファニーを救うためにティッシュの家族は奔走をはじめるのやけど、費用を捻出するために2人の父親が、どうやらかつて手を染めていたらしいちょっとした悪事で金稼ぎをする。

♡ さらりと描かれるだけやけど、悪事は悪事。でも見る側も、ここはもう必要悪と割り切らざるをえないような場面よね。

♤ ようやくファニーに罪を着せたヒスパニック系の女が故国に帰っている先を見つけ出すことに成功し、彼女から無実の証言を得るためティッシュの母親(レジーナ・キング)が単身乗り込んでいく。しかしあと一歩というところまできて失敗してしまう。

♡ この場面の絶望感ったらなかった。相手の女性にも、きっと黒人に対する複雑な感情があったのやろね。ただ本作で興味深いのは、ファニーたちはさまざまな理不尽に翻弄もされるけど、異なる人種の人々にも支えられてもいるという現実。ファニーを陥れる白人警官はこれ以上ないくらい醜悪に描かれ、このヒスパニック女性の頑なさも憎らしいばかり。香水売り場に働くティッシュは、毎日いろんなハラスメントにさらされてる。でも、ティッシュたちが頼る弁護士は、経験は浅いけど正義感に燃える白人やし、彼らをかばう食料品店主のおばさんも権力に屈する人ではない。お金のない彼らをいつも歓迎してくれるスペイン料理店の店主もかっこいい。なかでも印象的なのが、2人に部屋を貸そうとするユダヤ系の男性。なぜ黒人の僕らに部屋を貸してくれるのかと訊くファニーに、「自分もユダヤ系だから」と答えるのかと思いきや、「愛し合っている人たちが好きだから」という。「人の違いは母親が違うだけ」という言葉をはじめ、各所に珠玉のセリフが詰まった作品。

♤ ところで「ビールストリート(Beale Street)」というからメンフィスが舞台なのかと思ったらそうではなく、原作には『ニューオーリンズの「ビールストリート」』と書かれているそうでちょっと混乱。ということは、黒人によるブルースの発祥の地ともいえる「ビールストリート」という名前を黒人が持つパワーの象徴として使っていて、「can」ではなく「could」に理想には程遠い現実のもどかしさを込めたのだろうか?

♡ 私は、もしビールストリートが話せたら、ここから出ていったあまたの黒人たちの様子をみて何というだろう・・・というような意味かと思ったけど。あと、本作において秀逸なのは色彩と音楽。2人が過ごす街角や部屋の中は、『ムーンライト』に通じる鈍く控えめながら絶妙の配色バランス。逆に、ティッシュが勤める百貨店の香水売り場は色彩の洪水で、別嬪さんのティッシュがショーケースの前に立つだけでスクリーンが華やぐ。音楽は落ち着いたジャズと管楽器がメインで、70年代のソウルミュージックじゃないところもいい。ただ、エンドロールに使われたのがビリー・プレストンの歌う“My Country, ‘Tis of Thee”。ハッピーエンドではないのに、不思議なおだやかさで終わるこの作品の最後に、自由の国アメリカの誇りを歌う曲をもってきたことでアイロニーが加わった。

 

予告編

スタッフ

監督 バリー・ジェンキンス
原作 ジェームズ・ボールドウィン
脚本 バリー・ジェンキンス

キャスト

キキ・レイン ティッシュ・リヴァーズ
ステファン・ジェームス ファニー(アロンゾ・ハント)
コールマン・ドミンゴ ジョーゼフ・リヴァーズ
テヨナ・パリス アーネスティン・リヴァーズ
マイケル・ビーチ レヴィー
ディエゴ・ルナ ペドロシート
ペドロ・パスカル ピエトロ・アルバレス
エド・スクレイン ベル巡査長
ブライアン・タイリー・ヘンリー ダニエル・カーティ
レジーナ・キング シャロン・リヴァーズ

レクタングル336

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