レビュー

ウインド・リバー(Wind River)

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Wind River

キット ♤ 4.0 ★★★★
アイラ ♡ 4.0 ★★★★

アメリカの辺境に暮らす人々の閉塞感やそこで起きる犯罪の背景を描く『ボーダーライン』や『最後の追跡』で、2年連続アカデミー賞にノミネートされた脚本家テイラー・シェリダンが、自ら手がけたオリジナル脚本をもとに撮った初監督作品。ネイティブアメリカンの居留区が広がるワイオミング州のウィンド・リバー。そこでは若い女性の殺人が相次いでいた。現地のハンターであるコリーは、雪の積もる原野で凍死したネイティブアメリカン女性を発見。FBIの新人捜査官ジェーンが現地に派遣されるが、雪に覆われた慣れない環境で捜査は難航。コリーに協力を求め、事件の真相を追っていく。主演は『ハート・ロッカー』のジェレミー・レナーと、『アベンジャーズ』シリーズのエリザベス・オルセン。

 

言いたい放題

キット♤ 主演がジェレミー・レナーとエリザベス・オルセンで、2人ともマーベルのアベンジャーズシリーズで「ホークアイ」と「スカーレット・ウィッチ」を演じている。ジェレミー・レナーの出世作はイラクを舞台にした『ハート・ロッカー』(2008)やけど、本作では舞台を冬場のワイオミングに置き換えてはいるけど雰囲気は似ている。3年前にちょっと目を話した隙に娘を殺されてしまったことを引きずった渋い感じが良い。

アイラ♡ ハンサムではないけど、ジェレミー・レナーという俳優には、ただ黙っていても万感の思いがにじむような深みのある演技力が備わっていて、本作の主人公コリー役にはぴったりはまってる。脚本・監督は、昨年のアカデミー賞で作品賞や脚本賞など4部門にノミネートされ、NETFLIX作品として注目された『最後の追跡』のテイラー・シェリダン。アメリカの辺境や国境地域を舞台にする骨太な作品を生み出している人で、本作も素晴らしい出来やと思う。
♤ 一応クライム・サスペンスという仕立てにはなってるけど、雪原で発見された凍死体は犯罪被害者と思われ、自身も娘を殺害されたコリーとFBI捜査官のジェーンが犯人を追い詰めていくと、場面は一転して被害者の回想となり、事件の顛末があっさり明かされる。謎解き要素はここでなくなってしまうので「推理」の要素は実はない。ただストーリー自体は、脇道に入ることなく一本調子でずんずん進んでいく骨太の作りで、繊細さはないけど、この映画ではそれが良い効果を出していると思う。ここに先住民居留地の閉塞感やローカル色が絡んでくる。脚本は事実にインスパイアされたということやけど、2012年にニューヨーク・タイムズが掲載した「ウインド・リバーでレイプ事件や女性の失踪事件が異様に多い」という記事が発端らしい。
♡ ウィンド・リバーという地域を覆う寒々とした閉塞感には、胸元をぎゅっとつかみ取られる感じがするよね。どんなに空気が澄みきっていても、そこにはただ荒涼とした雪原と急峻な山だけがある。先住民居留区には何の娯楽もなく、生き甲斐も見つけられず暮らし続ける人々がいる。自然環境も人の心も殺伐として、蓄積された悲しみだけが居座っているという感覚に打ちのめされる。
♤ アメリカの犯罪捜査ものを観るときに混乱するのが、連邦捜査局(FBI)、州警察、市警察、部族警察などなど、いろんな組織が出てきてややこしいこと。FBIは複数の州をまたぐ事件が担当だと思っていたので、なんでワイオミングの狭い地域の事件に駆り出されてくるのか不思議やったけど、先住民居留地が連邦政府の管轄であるということを後で知った。
♡ 送り込まれる捜査官のジェーンは寒冷地を知らず、何かととんちんかんなことをするけど、実は強いものを持っていることがわかってくる。自らの立ち位置を理解し、勇気もある。犯人グループと思しき連中と対面し、全員が銃を構える一瞬の緊張の場面は、小娘みたいだった彼女が急変貌する見どころでもあるわね。
♤ 一方のジェレミー・レナーにとってもおいしい役やったんとちゃうかな。冬場は-30°Cにもなる積雪地帯やけど、スノーモービルを馬に置き換えれば、保安官たちと砦に巣食う悪党との対決という古典的な西部劇に限りなく似ている。ただし武器は近代的なもので、悪党も自動小銃を撃ちまくる。結局、銃撃戦で決着を着けることになるが、ジェレミー・レナー演ずるコリーが持つ銃の威力が凄まじい。みたところショットガン風でずんぐりしてるけど、スコープが付いていて遠距離からほぼピンポイントで撃つことができる。トレーラーハウスの窓ごしに撃って相手を吹き飛ばす火力は反則っぽいけど、事前に薬莢に自分で火薬を詰めて弾丸を自作するシーンを見せられているので、なるほどと思うしかないな。
♡ 寡黙な役やけど、彼には珠玉のセリフも用意されていて、ひとつは被害者の父親に、娘を失う悲しみとの折り合いの付け方について語るところ。重傷を負ったジェーンにも、病室でなんかええこと言うてたな・・・。ちょっと思い出せないけど(汗) ほんま、これは現代版テイストの西部劇なのもしれないわね。
♤ ところで、部族警察のベンがええ味だしてたんやけど、銃撃戦での生死がはっきりせんかった。生きてたらええねんけど・・・。

予告編

スタッフ

監督 テイラー・シェリダン
脚本 テイラー・シェリダン

キャスト

ジェレミー・レナー コリー・ランバート
エリザベス・オルセン ジェーン・バナー
ジョン・バーンサル マット
ジル・バーミンガム マーティン
ケルシー・アスビル ナタリー
グレアム・グリーン ベン
ジュリア・ジョーンズ ウィルマ
テオ・ブリオネス ケイシー

レクタングル336

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